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声のデカい男③

ぞろぞろと続く集団の流れに従い居酒屋に入っていくと、中は掘りごたつ式の広い座敷になっていた。すでに半分くらいの席は埋まっており、僕たち3人は長テーブルの端の方に横並びで座った。向かい側の席には、すでに別の男たちが座っており、静かに当たり障りのない会話を始めていた。

「新入生ですか?」と向かい側の誰かが聞いてきて、「はい、そちらも?」と片岡が応じた。会話の輪が大きくなった。それから無難な会話が少しつづいた。輪の大きさは大きくなったが、細い輪のままだった。片岡は唐突に

「酒飲める?」

と質問を投げかけた。輪の形が若干ゆがんだように見えた。気がつくと会場は学生たちで埋まっていた。各自の目の前にはグラスが置かれており、ところどころにビール瓶がそびえ立ち、こげ茶色の液体やオレンジ色の液体が入った大きくて透明な容器も配置されていた。向かい側に並ぶ新入生たちは戸惑いの表情を浮かべ、そっと周囲の様子をうかがった。やや、間があいた。

「飲むよ」

僕は、ゆっくりと、鷹揚に、近くにあるビール瓶に手を伸ばしながら言った。隣にいる片岡が喜色満面になった様子が、直接顔を見なくてもよく分かった。たしかに僕はまだ十八歳だった。二十歳未満の飲酒が法律で禁じられていることは知っていたし、大学も公式には禁止していることも知っていた。他方、大学生になれば飲み会で酒を飲むのは当たり前という伝統があるとかないとかいうのも聞いていた。だから、周りに合わせるために空気を読もうとする心理はよく分かる。しかし僕は、

――そんなのは羊だ

と思う。自分で考え、自分で判断して行動しなければ、成功はつかめないではないか。だから僕が酒を飲んだのは、サークルの伝統(そもそもそんな伝統はなかったのかもしれないが)に従うためではなかった。二十歳未満と言ってももう十八歳であり、適量にとどめれば身体に害は少ない一方、酒が入ればコミュニケーション能力がブーストされ、人間関係の構築に成功する可能性が高まると考えたからだ。ちなみに、酒を飲めば気分が上がるというのは経験上知っていた。それはそれでストレス解消になるメリットもあるわけだ。

僕は手に持ったビール瓶で自分に酌をした。

「俺もビール!」

片岡も間髪を入れずに叫び、グラスを差し出してきた。僕はビール瓶を片岡のグラスに傾けつつ、「グラスは斜めにして受けると泡が立ち過ぎないよ」とティップスをつぶやいた。片岡は、目を丸くして「おおおーすげえ」と歓声を上げた。なんて大げさなリアクションなんだと若干の軽蔑心を抱きつつも、悪い気はしなかった。僕が注いだビールは、片岡のグラスの内側を伝い、上品な泡を発生させながら底に溜まっていった。


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