声のデカい男②
大学の新入生には大量のビラが配られる。上級生が自分の所属するサークルに勧誘するためにばら撒くビラだ。街中では自動的に防衛システムを作動させる新入生も、このときばかりはすっかりそれを解除して迎え入れる。入学して初めて足を踏み入れたキャンパスで、僕は色とりどりのビラが両手の上に積みあがっていくのにすっかり幻惑された。帰宅してからその安っぽい紙の束に少しだけげんなりしたが、その中から一枚だけ、黄緑色のものを取り出して、記載されている日時と場所をメモしておいた。それは、知的で優しそうなお姉さんが手渡してくれた、国際協力活動サークルのビラだった。
指定された時間の5分ほど前に行ってみると、そこには数十人くらいの人だかりがいくつもできていた。どの人だかりにも、看板のようにして大きな紙を掲げた上級生らしき人が立っていた。僕はその中から何とか目当てのサークル名を見つけ、少し躊躇して立ち止まってから、輪の外側に何気なく加わった。輪の中心にはボードを掲げた学生と、インテリ風な顔つきの学生が数人おり、それを取り囲むようにして従順そうな学生たちが大勢待機していた。しばらくして、居酒屋に移動しますという声が中心からかかり、輪はぞろぞろと動き出した。まるで羊の群れのようだった。僕も羊に擬態して、黙って歩き出した。ところが、群れの中に妙に活きのいいのがいることに気がついた。注意して見ると、片岡が、初対面と思しき新入生と楽しそうにおしゃべりしていた。知らない人ばかりの中に少しでも知っている人がいると、状況は全然違ってくる。僕は群れの中の安住から抜け出して、少しずつ片岡に近づいていった。
「あれ?」と、若干わざとらしく、中国語で一緒だった片岡君だよね? という含みをもたせて、声をかけてみた。「あ!」と片岡が応じた。その声のニュアンスと表情で、見知った顔だという共通認識が確認される。僕は片岡の隣にいた新入生に軽く会釈し、自然に会話に入り込むことに成功した。三人で固まって歩きながら、片岡は僕に聞いてきた。
「どのくらい新歓回ってる? 何個目?」
「え? いや、ここだけ」
新歓コンパ、新入生を歓迎しようという飲み会は、この時期あらゆるサークルで開催される。しかし、ほかに特に興味のあるサークルはなかったから、あちこちの新歓コンパに出席することなど考えもしなかった。片岡が新歓コンパ自体を目当てにして「回って」いるのだということは、飲み会が始まってから僕にも分かったことだった。




