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息子①

あれ以来、しらふ顔の男改め上田氏の噂を耳にすることはなかった。卒業が近づき、四年生はキャンパスに姿を見せること自体が少なくなっていたからかもしれない。しかも片岡は、サークル内のシンパが運動したことにより出禁を解除された。上田氏にわざわざ接触する理由もなくなった。

後期になると、僕と片岡の履修科目の一致率は九十パーセント近くになった。僕の履修方針は前期と同様にGPAを最大化すること。当初片岡は僕の履修科目を全部なぞろうとしたが、「お前は単位の取りやすさを優先すべきだ」と助言して、履修登録を最適化してやった。その結果がこの重なり具合だった。教室の最前列の端に座れば、しばしば後ろに片岡がいるのも前期と変わらない。振り返って片岡の手元をのぞくと格闘ゲームの実況動画が再生されているのも変わらなかった。人がゲームをしているところを見て何が面白いのか僕にはさっぱり分からず、片岡にも一度「何が面白いの?」と聞いてみたことがある。「自分のプレーと比べて見ると、こんなやり方があるのかっていう発見がある」とのことだったが、それを聞いてもいまいちピンと来なかった。自分で試行錯誤するからこそ楽しいのではと思ったが、趣味なんていうものは人ぞれぞれだと弁えた。今思えばなんと平和で可愛げのある趣味であったことか。そんな人畜無害な動画ばかりの中に、いつからか、いかにもAIで生成されたようなギラギラした映像の動画や、見知らぬYouTuberが一人語りしている動画が混じるようになってきた。僕は期待を持った。どうせ講義を聴かずに動画を視聴するのであれば、何の役にも立たない動画を見て時間を浪費するよりは、何らかの情報を得られたりインスピレーションを与えられたりするものを見る方が有意義だ。

そして片岡は、ある日の授業中、YouTube動画のリンクを唐突に送ってきた。僕が気づかずに講義に集中していると、教員の発言の合間に、すかさず後ろから肩を叩いてきた。

「おい、ちょっとLINE見て」

スマホを見ると、通知が来ているのが分かった。素早くLINEを開くと、「この動画見てくれよ。どう思う?」というメッセージとともにリンクが貼られており、宇宙を背景にしたビビッドなサムネイルが目に飛び込んで来た。手が勝手に動いてリンクをタップし、YouTubeアプリが起動したところで慌てて閉じた。背を反らせて顔を横に向ける。片岡が耳を寄せてきたところで、僕は無声音で「後で見てみるよ」と力強く言った。


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