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信者⑧

「嫌いって言ってもそのとき会ったきりでしょ」葵があきれたように言った。「それに上田さん。悠のこと褒めてた、っていうか面白い奴だって言ってたよ」

「え? あいつも俺のこと覚えてんの?」

片岡は、上体を起こしてファイティングポーズのような姿勢を取った。

「うん。悠とは仲良しだって話したら、うちに入ってくれなくて残念だと思ってたって」

――それは嘘だ

と僕は直感した。そして柄にもなく思いつきでものを言った。

「あの人が片岡の悪評広めてる犯人だったりして」

「あっ」片岡は小さく叫んだ。何の根拠もない冗談だと僕が付け加えても、もう遅かった。

「そうだ、あいつだ。もともと俺嫌われてたし、葵とのことでますますムカついたんだろ。そういえばすれ違うたびにこっち見てたんだよ。何か企んでそうな気がしたんだ。サークル出禁になったのも裏であいつが手を回したんじゃねえかな」

「いや、さすがにそれは考えすぎじゃないか? 出禁にするって一人や二人で決められるわけじゃないだろうし。みんなで話し合って決定されたことだろ?」

「そうだけど、そのみんなに説得したり吹き込んだりしたんだよ」

「そこまでしないよ、普通。何のメリットもないんだから」

「う~ん、そうかなあ」

片岡は首をひねり、葵は一息、大きくため息をついた。そして別の話題に移ったあとに、片岡は再び漏らした。

「俺やっぱあいつ嫌いだ。あー思い出したらムカついてきた」

そう言うなり虚空を見つめ、独り言のように言った。

「目黒ほど信用できる奴、いねーわ。もし目黒に裏切られることがあっても、自分に原因があるって考えんだろうなあ、きっと」

僕は何も言えずに曖昧に笑うことしかできなかった。正面から受け止めてしまえば、いずれ本当に片岡を裏切ることになるような気がした。

広尾駅で片岡と別れ、僕たちは日比谷線に乗った。葵は次の駅で乗り換えるはずだったが、ドアが開いても何も言わずに俯いて動かなかった。

「あれ? ここじゃないの?」と言うと、葵は「うん」と小さく反応するだけで答えなかった。ドアが閉まり、電車が動き出すと、葵が顔を上げた。

「少しだけ時間ある?」

僕たちは中目黒駅で一緒に降りた。見知らぬ街だったが、スターバックスの店舗が目についたのでそのまま入った。

「さっきの悠の話なんだけど……」

葵が僕に何を相談しようとしているのか、察しはついていた。

「悠が上田さんに何かしないか心配」

「心配って、その上田って人との仲を壊されるのが?」

的を射た質問でないことは分かっていたが、その点は確認しておきたかった。葵は、すぐに首を横に振った。

「ちがうよ。そういうことじゃなくて……」

「片岡が何かトラブル起こさないか心配なんだね?」

葵は、真剣な眼差しでうなずいた。

「ごめん、僕が適当なことを言ったばっかりに」

そのせいで片岡がおかしなことを考えてしまったのだ、と思った。片岡を説得するのにこれほど苦労したことは初めてで、僕は微かな焦燥感を感じていた。しかし同時に、葵に頼りにされていることも実感した。

「目黒くんは悪くないよ」

そう言ってくれた葵に、僕は真剣な眼差しを返して言った。

「大丈夫。片岡のことは僕がちゃんと見てるから」

葵の心配をよそに、僕にはなぜか、片岡が過激な行動をとることはないだろうという確信があった。


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