信者⑤
夏休みが終わるころ、久しぶりに三人組が集合した。
「実家が遠くにあるっていいな。二拠点生活? なんかそういうやつ」
間延びした声でそう言うと、片岡はシャインマスカットを口いっぱい頬張った。拠点を二つ構えて生活しているのと地方出身の学生が帰省するのとは全く違うのだということを、僕は若干のイラつきとともに小声で説いた。葵とともに招かれたその家は片岡の実家で、広尾にある立派な二世帯住宅だった。座り心地のよい革張りのソファーに巨大な液晶画面のテレビ、大きくて怪しげな紫色の壺とやたら存在感のある木彫りの熊、壁一面に掛けられたバラバラの画風の多数の絵画。その一つひとつは相当値が張りそうな代物だが全体的に統一感がなく、どうにも居心地が悪かった。
「こんなに便利なところに実家があるのに、どうして一人暮らししてるの?」
葵が至極まっとうな疑問を口にした。ここから大学に通っても、一回電車を乗り換えるだけで三十分もかからないだろう。どう考えても家賃の無駄としか思えなかった。
「自由だし気楽だし。母ちゃんにうるさいこと言われないからなー」
僕は思わず振り返り、キッチンの奥でキビキビと立ち働く片岡の母親の背中を見つめた。
女性にしては大柄で、派手な化粧をし、身振り手振りが大げさだった。遺伝子に乗せて片岡に受け渡したであろうその明朗な声で、僕たちは温かく出迎えられた。リビングの大広間に通されると、早速良い香りのする紅茶と純白のショートケーキを出してくれたのだが、それを見るや片岡は「体に悪いもん出すなって言ったろ」と一喝し、御母堂はケーキを引っ込めて、代わりにふんだんに果物を持ってきてくれた。「いいんです、ケーキで」というのもおかしいので、僕たちは申し訳なさと有難さとで、両方の気持ちを込めた「すみません」という言葉を発した。




