信者④
大学の夏休みは長い。猛烈な暑さをかいくぐって塾講師のアルバイトに精を出し、お盆には長岡市の実家に帰省した。進学を機に上京してから五ヶ月。数えてみるとさほどの年月でもないのだが、環境がガラッと変わって新鮮な日々を送っていたためか、もう何年も親の顔を見ていないような気がした。横浜から夜行バスに乗り、早朝に長岡駅前に着いた。停留所を降りて少し歩くと、ブルーの軽自動車がすぐ目についた。見慣れた車体が早朝の朝日に照り映えて、美しく輝いて見えた。僕が近づいていこうとするや否やドアが開き、母が出てきて手を振ってきた。
「バスで寝れた? 疲れたんじゃないの? 帰ってくるときくらい新幹線使いなさい」
確かに新幹線の方がコスパがよかったかなと考えながらも、僕は生返事で済ませてボストンバッグを後部座席に投げ入れた。まともに顔を合わせないままに、助手席に乗り込む。
「家に着いたら少し休んで、お腹すいてる? すいてたら朝ごはんも食べて、できたらお昼前によっちゃんちと朝子おばさんの家に挨拶に行くよ。東京のお土産ちゃんと持ってきた?」
うん、大丈夫、どっちでもいい、この三パターンでだいたいの返事は事足りる。長岡駅から実家までは車で四十分くらいの道のりだ。母は、あまりおしゃべりな方ではないのだが、このときは実によく喋った。車窓から景色を眺め、まどろんだ。パリッとしたスーツを着こなして、この町の人々の歓声に応える自分の姿が、ふと浮かんだ。
家に着くと、荷物を置いて仏壇の前に座った。
「父さん、ただいま」
無神論者の僕も、このときばかりは自然に手を合わせる。下請けの施工会社で身を粉にして働いていた父は、僕が中学二年生のときに、大動脈解離という病気で急死した。健康診断で高血圧を指摘されていたらしい。母は自分のせいだと言っていたが、僕は何も言えなかった。
「遼一、お父さんに似てきたねえ」
横から父の遺影をのぞき込みながら母が言った。改めて間近でその横顔を見ると、しわが少し増えているような気がした。しみじみしている暇はなかった。




