信者②
片岡が投げかけてくる疑問は専門外のことにも及んだ。「空はなぜ青いのか」とか「じいちゃんが死んだら遺産は誰のものになるのか」とか、僕の知識の範囲を超えるものもあったが、インターネット検索と自分の頭脳による推論を駆使すれば、多少の精度は犠牲になるにせよ答えられないものはほとんどなかった。回答の精度を犠牲にした場合でも、いや精度を犠牲にした場合ほど、どういうわけか片岡の「すげえ!」というリアクションは大きかった。ときに突拍子もないことを聞いてくることもあった。
「深海には別の文明を築いてる人類がいるっていう説があるらしいんだけど、どう思う?」片岡は、真剣な顔をしていた。「世の中に『絶対』はないだろ?」と言った。
僕の方から蘊蓄を語ることもあった。僕は、健康こそが成功の土台だと考えているから、お菓子やジュースには手を付けない。外食時には、食物繊維が不足しないようにサラダを追加する。片岡も、徐々に僕の食生活の特徴に気づき始め、あるとき勉強会の仲間うちでファーストフード店に行った際に、「目黒は、いっつもウーロン茶だな」と、つぶやいた。前日に医療・健康系の動画を見ていたこともあり、僕は片岡に、ジュースの飲みすぎやお菓子の食べすぎの危険性を饒舌に語った。その語りは思惑通り片岡の心に刺さり、片岡は手に持っていたフライドポテトを見せてきて、「これもヤバい?」と、おそるおそる聞いてきた。僕は、自信たっぷりに「ヤバいよ。ガンになるよ」と言った。驚いた様子の片岡を見て、僕のいたずら心が刺激された。
「ハンバーガーもあまりよくないな。僕はたまにしか食わないからいいけど、食いすぎはNG」
片岡は、目の前にハンバーガーが三個乗ったトレーを見つめて唸った。僕は、悠然とスマホを操作し、YouTubeの健康系動画を集めた再生リストのリンクを、片岡に送った。そして最後に、この飲酒・喫煙の常習者に対してダメ押しをした。
「でも何よりもヤバいのは酒とタバコ。確実に寿命を縮めるから」
効果てきめん、片岡が頭を抱えて苦悶の表情を浮かべたところで、僕は手綱を緩めることにした。
「まあ、そうは言っても僕らはまだ若いから。神経質になる必要はないよ。要はバランスが大事なんだ」
片岡は、気のない相づちを打っただけで、すぐに苦悶の表情に戻った。




