友達⑩
なるほど、葵は片岡の良き理解者なんだ、と僕は得心した。なぜか片岡の話題であればいくらでも喋れる気がした。
「それに加えて、曖昧な答えを許容できないところがあるんだと思う。納得できるまで相手を詰めちゃうからトラブルになるんだろうな。僕は議論が好きだし全然苦にならないけどね」
「目黒くん、すごくよく悠のこと分かってる」
葵は、僕の目をまじまじと見つめてきた。僕は、早口になって、新歓コンパで片岡が酒を飲まない新入生を質問攻めにしたエピソードを話した。
「目に浮かぶ〜」葵はおかしそうに笑って言った。「そういうときって、自分が間に入って調停者みたいになっちゃうよね」
「そうそう、あるある」
僕たちは、ひときわ大きく、笑い合った。まるで、子どものヤンチャぶりを見守るお父さんとお母さんのように。同時に、お母さんの愛情が専ら子どもの方に向いてしまっているお父さんの孤独をも、想像してみた。
「私は目黒くんみたいに上手く説明できないから、いつも調停失敗しちゃうんだけどね。あとで相手の方を慰めたり、宥めたりするだけ」
葵は、困った顔をしながら笑った。
「そういえばね、私も初めて飲み会で一緒だったとき悠に聞かれたよ」
「なんで飲まないのかって? 」
「うん。私の場合は、蟻の一穴って言うのかな。小さい決まりでも、一度でも自分の事情で破っちゃうと、それが慣れっこになってダメな人間になりそう。そういう自分は嫌だなって思うから」
僕は、葵の言葉を聞いて考え込んだ。たぶん難しい顔をしてしまっていたのだろう。葵はすぐに付け加えた。
「あ、目黒くんとか悠がそういう人だって言ってるわけじゃないよ。私が自分のことをそう感じてるだけで……」
「分かってる、分かってる。大丈夫だよ」
むしろ自分の方が慌てて言った。葵の言葉は、直観的であるだけに自分の中にはなかった視点を含んでいた。それがどういうことなのか、僕は珍しく言語化に難儀した。ちょうどそのとき、片岡がトイレから戻ってくる姿が見え、僕の内省はそのまま流れてしまった。
葵は翌日に一限から授業があるということで、どこにもハシゴすることなく解散することになった。葵は、後期から教職課程を履修する予定のため、今のうちに単位を取れるだけ取らないといけないと言った。
僕は、帰宅してから手を洗い、水を飲み、レポート課題の資料を取り出した。ほろ酔いのまま、無心に読み通した。




