友達⑦
約束の時間を十分ほど過ぎたころ、例のグッチの柄シャツを着た片岡が、駅のロータリー側の方から、ポケットに両手を突っ込みながら近づいてきた。
「用事もないのにどうして遅れるのよ」
葵は、まるでさっきのスタンプのアヒルのように飛び跳ね、片岡の肩を叩きながら問い詰めた。片岡は楽しそうに言い訳をした。
「一回家に帰って充電してたんだよー」
片岡は、自由が丘に家を借りて一人暮らしをしていた。東京生まれ東京育ちだと前に話していたが、聞いてみると実家は都心の一等地にあるらしかった。店のチョイスは、「地元民」だと主張する片岡に任せていたが、連れて来られたのは普通の学生がよく利用するチェーン店の居酒屋だった。
「朝まで飲み会だったって言ってたけど、また酒飲むの?」
今さらながら聞いてみたが、片岡は親指を立てて満面の笑みで応じ、そのまま店内に入って行った。片岡は、席に着くなり机上のタブレット端末を手に取り、メニューが表示された画面からビールを注文した。
「二人は何にする?」と問われ、僕は、さっと店内を見渡して客層と店員の忙しさをチェックした。この様子ならわざわざ年齢確認などしてこないだろうと踏んだ上で、ウーロンハイを頼むことにした。彼女はどうするだろうかと気を揉むが早いか、葵は「私はジンジャーエール」とあっさり決めた。
彼女を僕らの飲酒に引き込まないで済んだという安心感と、一緒に飲めないという失望がないまぜになった。僕は、また片岡が〝酒を飲まない理由を説明しろハラスメント〟を始めるのではないかと心配したが、このときは片岡は何も言わなかった。
「二人は付属で一緒だったって聞いたけど」
さりげなく、葵から聞いたばかりの情報を深掘りする。
「葵は成績いいし、進学も余裕だったよな。俺は運が良かったよ」
片岡は、ビールをグビグビと飲んだ。いつの間にビールの味を覚えたのか、ちっとも苦しそうな顔をしていなかった。
「担任と仲が良かったんだ。いろいろ助けてもらったなー」
ビールの泡を口の周りにつけたまま、片岡は遠い目をした。僕たちの大学には付属高校が何校もあるが、片岡と葵が通っていたのは比較的小さい高校で、一学年に十数人程度しか内部進学者がいないらしかった。なるほど、それで二人は始めから仲がいいのかと一応納得した。
「目黒もどうせ勉強できんだろ?」
「まあ普通だよ」
もちろん嘘だ。普通どころではない。勉強は大変得意だ。片岡はこういう欺瞞を許さない。そんなはずはない、高校はどこの高校か、模試の成績はどうだったか、と激しくまくし立てられ、僕はすぐに白状した。
葵が少し心配そうにこちらを見ているのを察して、僕は、そういう片岡の性格をすでに理解し、受け入れているということを葵に示そうと思った。ごく自然に話をつなぎ、国立大学も受験したが当日に体調不良で残念な結果に終わったこと、家の事情で浪人は断念したことを、なるべく明るい調子で語った。




