友達⑤
「谷村葵です」と彼女は名乗った。「目黒くんのことはいろいろ聞いてるよ。すごく頭がいいって」
「はぁ」肯定とも謙遜とも取れる返事をすると、片岡が畳みかけるように言った。
「そう、勉強ができるっていうのもあるけど、なんていうか全方位的に有能なの」
直球で誉め言葉を受けて、僕はどう反応してよいか分からずに、中途半端に頬を持ち上げた。
「そういえば、どっかのサークルの新歓で俺ら一緒にいたんだよ」
片岡が言った。それは知っている。「それでお前らはどういう関係なんだ?」と思わず聞きそうになったとき、
「そうだよね、あのとき悠と同じ席にいたよね。目黒くん」
と、葵に機先を制された。ああ、「悠」って、下の名前を呼び捨てにしあう仲なのか。あのとき片岡といたよねって、僕の顔を覚えていたのか。重要情報が同時に二つ飛び込み、僕のニューロンは激しく発火した。
「目黒くんもサークル入ってくれなかったんだね」
「そうだね。ちょっと自分には合わないかなと思って」
葵は僕のことをあのときすでに認識していたようだったが、僕の方も葵を知っていたのだということは口にしなかった。ただ、「え、入ったの?」と短く聞いた。主語を入れて話すことができなかった。
聞けば葵は、そのサークルでけっこう活発に活動しているとのことだった。さして悔いはないが、サークル活動に打ち込む大学生活がどんなものになるのか、少し想像した。
思いのほか立ち話が込み入ってきたところで、片岡はさらっと言った。
「あとで目黒と飲みに行くんだけど、葵も来る?」
言いながら片岡は、僕の方をちらっと窺って「いいよね?」という顔をした。葵も同じような顔をしながら実際に「いいの?」と言った。まるで僕に決定を預けられたような格好になり、
「もちろん。みんなで行こう」
と控えめに宣言した。
「またあとで」と手を挙げて、二人は図書館を出て行った。
僕は、右手に持ったままになっていた本を見つめ、それを元の書棚に戻しにいった。そして、ずらっと並んだ机の一つにおさまり、カバンから課題のための資料を取り出した。
しかし、頭の中には、新歓コンパで見た時の二人の様子と、今話していた二人の様子が交互に映し出されていた。片岡は自分と違って快活な性格だし、きっと女の子にもモテるだろうな、と推測した。とはいえ、よく女遊びにまつわる話を聞くが、片岡に特定の彼女がいるという話は耳にしたことがない。その時点では、二人がどのような関係なのかを判定するには、根拠が足りなかった。
僕は、先刻取り出した資料を、そのままカバンの中に戻した。そういえば片岡はメシの予定を勝手に飲みに切り替えていたが、また酒を飲んで大丈夫なのだろうか、と思った。




