友達④
片岡は、ぼんやりした調子でうなずきながら言った。
「ところで、今日何してる?」
「いや、特に何も」
答えつつ、僕は、そのあとに具体的な提案なり、誘い文句なりが続くことを予期した。ところが、片岡は何か言いたそうに口元を動かしているだけで後が続かない。
「片岡は?」
僕はたまらず聞き返した。
「俺も暇なんだけどさ」
片岡はそう言うが、僕は暇なわけではない。しかし、片岡の希望を汲み取って僕は言った。
「じゃあメシでも行こうか」
片岡は、今度は僕が予期したとおり、快活な笑顔になった。僕も思わず笑った。傍若無人に振る舞うかと思えば、急に奥ゆかしくなったりする、その行動の滑稽さがおかしくて、笑えた。
「何時くらいにする? このあと授業は?」
と、夜までの予定を互いに確認していると、片岡が突然視線を外し、僕の後方に向かって大きく手を振った。
「おーい! あおい~」
とにかく図書館に似つかわしくない大声が、大きく響いた。振り返ると、小柄な女がこちらに向かって素早く駆けてくるのが目に入った。スニーカーに薄い色のジーンズ、白のブラウスに淡い緑色のカーディガン。完全に場に溶け込んでいたのに、急にスポットライトを当てられて焦った顔。一方的に見知った顔。丸顔の女だった。
「ちょっと! 声大きいっ」
初めて聞いた彼女の声は、少年のように無邪気で真っ直ぐな声だった。僕は、とっさのことに黙って立ち尽くし、片岡は、たしなめられて心持ち小声で話し始めた。片岡の口から彼女の耳へ、僕の名前が運ばれていく。




