友達③
「おい、片岡!」
僕は、憩いの時間を邪魔されたことによる苛立ちから、荒っぽく近づいて行って真上から声をかけた。
「……あ、」片岡は、うっすらと目を覚まし、ゆっくりと背を起こした。「よう。こんなとこで何してんの?」
「お前こそ、こんなところで何してんだよ。まったく、変な奴が寝てるよと思って見たら……」
図書館には最も似つかわしくない顔を見たせいか、僕はいつの間にか路上で喋るようなトーンで喋っていた。片岡は、意に介することなく、僕が右手に持った本を見て言った。
「お前、ほんとに本好きなんだな。すげえな」
何がすごいのかよく分からない上に、レポートをサボっている後ろめたさから、僕はとっさに本を後ろ手に隠した。
「いや、違うよ。レポート出されたから資料を探しに来たんだよ」
「え? 何の科目?」
片岡は、食い気味に聞いてきた。
「経済史だけど」
「あーよかったあ。前期では取ってないやつだ。目黒は前期は何履修してるんだっけ?」
片岡は、僕が履修登録している科目を細かく聞いてきて、自分のそれと照合し始めた。
こいつ、案外抜け目のない奴だなと思いつつ、僕は知っていることをすべて教えてやった。同時に、どの科目が片岡と被っているのかを、きっちり記憶した。片岡は、思い出したように勢いよく立ち上がり、「ションベンしてくる」と言って小走りに駆けていった。衣擦れの音、アクセサリーがガチャガチャ鳴る音、ソファーチェアに沈み込んだり立ち上がったりするときに空気が鳴る音、靴が床を蹴る音、動作の一つひとつが騒音を放っていた。そしてソファーチェアの上には、片岡のオロビアンコのカバンが残されていた。一人になると急に静寂が帰ってきて、その辺りの書架で本を探している学生や、少し離れたソファーチェアに座って本を読んでいる学生の様子が視界に入ってきた。僕は、そそくさとオロビアンコのカバンを拾い上げ、その場を離れた。
トイレから、のっそりと影が現れた。
「うっす、悪いね」
片岡は、僕の手からカバンを受け取ると、中からペットボトルを取り出して水をがぶ飲みした。
「朝まで飲み会でさ、寝てないから眠くて眠くて。やっぱ図書館は静かでいいわ」
ペットボトルからグイグイと水が吸い取られていくさまを見ているうちに、お気に入りの空間を侵されたことによる憤りも僕の中から吸い取られていくような感じがした。
「そりゃそうだろ。ここの図書館は特にすごいぞ」
つい得意げになって、そんなことも言った。




