声のデカい男⑪
帰りの電車は、途中まで片岡と一緒になった。僕は、二人きりになると、さっきの率直すぎる片岡の感想を思い出し、
「ふつう、あんな直球で不味いとか言う?」
と言って嗤った。しかし片岡は真顔で答えた。
「いや不味いとは言ってないよ。あいつが美味いって言うから。言うほど美味くなかったよな??」
「うん、まあね」
だからそれをそのまま言うのがおかしいんだよ、と僕はひとり内心で笑った。
「で、目黒はあそこのサークル、入るの?」
「ん~」僕は、正直に迷いを見せた。「片岡は?」
「俺は入らない。もともと入ろうとは思ってなかったけど、なんていうかさ、メンツ見たら余計つまらなそうというか」
「そうだよね!」僕は、片岡の言わんとすることがすぐにピンと来て、言葉にするのをためらっていたことをつい口にした。
「あいつら、他人の目ばかり気にして自分で考えるってことがないんだよ。それでも自分は賢いと思ってるところがいけ好かない。あれでよく入試受かったなと思うけど、真面目だけが取り柄なんだな」
片岡は、ウンウンと細かくうなずいた。僕は、理解者を得られた喜びとモヤモヤを吐き出す快感に包まれた。しかし、さすがに悪口が勢い余ってしまったと思わないでもない。結論はやはり、どっちつかずになった。「と言っても活動内容には興味あるし。どうするか考え中」
片岡は、そんな僕の迷いには興味を示さず、少し暗い顔をして言った。
「あの酒強い四年の奴がな。俺のこと絶対嫌いだろうからどっちみち無理だな。もう一人とはめっちゃ仲良くなったけど」
僕は言葉が見つからず、ただ黙って聞いていた。
電車は、僕が入寮している学生寮の最寄り駅に近づいた。速度が落ちてプラットフォームに停車し、ドアが開き始めた瞬間、僕は、片岡に言っておくべきことがあるのを思い出した。
「片岡! 中国語の勉強会、絶対来た方がいいよ!」
場違いなほど強い口調になったが、その甲斐あってか、片岡は力強くうなずいた。
駅からの帰り道を一人で歩いていると、丸顔の女の丸い顔が脳裏に浮かんできた。またどこかで会えるだろうか。そんな考えが浮かびかけたところで、僕は足を速めた。




