探知くん
それから二人は酒場を離れる。
村はずれの人気のない木立まで移動して人が居ない事を確認してからケイオスは軽く右手を掲げた。
「下級キメラ召喚、鳥、十二体《Summon Twelve Lesser Chimeras: Feather》」
詠唱を紡ぐと、地面から迫り上がるように光が渦を巻いた。
以前と同じ呪文だが今度のキメラは翼を持っていた、いびつな継ぎ接ぎの意匠は変わらないが。
(呼び出せるキメラもゲームと同じで選べるようだな)
召喚したキメラたちを眺めながら、ケイオスは頭の中で自分のスキル体系を改めて整理していた。
下級は低レベルモンスターの再現、中級は中レベル、上級は高レベルとそれぞれ再現度と戦闘力が段階的に上がっていく。
(とはいえこんな初めの村で中級も上級も出すもんじゃないしな、目立つし)
そして選ばれたのは見た目はともかく大きさ自体は小さめの彼らだった。
ケイオスは並んだ飛行型キメラたちへ向き直る。
「ここから外を飛び回って人が居る拠点らしきもんを探してこい、見つけたら戻って知らせろ」
命令を受けたキメラたちは迷いのない動きで一斉に羽ばたき、あっという間に空へと舞い上がっていった。
それぞれ別々の方角へ散っていく後ろ姿をケイオスはしばし見送る。
(偵察なんてやったことは無いが飛行できるキメラならこの辺りに潜んでる集団の発見くらいなら出来る…と思う)
ゲーム時代なら出来るはずはないキメラの使い方、だが、先の草原での指示を思い返せばやってみる価値はあるはずだ
※
翌日、オルディン村の外れ、駐屯地で仮設された天幕の中で、部隊長のアルセンは地図を広げていた。
「さて、どこから手をつけたものか」
呟きながら、辺境一帯を示す地図に視線を落とす。
輸送隊壊滅の一件そして盗賊団の討伐、どちらも一朝一夕で片付くとは、アルセン自身はじめから期待していなかった。
ヴァルス連合王国は広大な国土を誇る国家だ。
しかし広大過ぎる国家があだとなりその統治の目は辺境の隅々にまでは行き届いていない。
盗賊団の無法もそこが大きな要因だ
だが国もその無法についに見過ごすことは出来ず彼ら精鋭を派遣したのだった。
「隊長、報告です」
部下の一人が天幕に入ってきた。
「輸送隊の生存者からの聴取、追加で取れました。ただ……相変わらず要領を得ません。
得体の知れない怪物が現れて、統率もへったくれもなく蹴散らされた、の一点張りで」
「…解った」
アルセンは短く答えると、地図に視線を戻した。
正体不明の怪物の一件は、確かに気にかかる。
だがそれを追うだけの余裕は今のこの部隊にはない。
輸送隊を壊滅させた怪物は目撃情報だけで正体が掴めず追跡の糸口すらない状態だ。
「目的通り盗賊団から追う、この王国でこれ以上の狼藉を許すわけにはいかない、怪物の一件は動きがあり次第随時対応するとしよう」
アルセンは地図に指を這わせながら辺境に点在する複数の地点を丸で囲んでいった。
盗賊団が潜伏していそうな候補地をじっくりと絞り込んでいく作業が始まろうとしていた。
天幕の外では精鋭部隊の面々が黙々と装備の手入れを続けている。
長期戦になることを見越した静かで淡々とした空気がその場に満ちていた。
そんな時、駐屯地の天幕に、一人の兵士が慌ただしく駆け込んできた。
「隊長ご報告が!」
「なんだ、騒々しい」
アルセンが地図から顔を上げると、兵士は息を弾ませながら告げた。
「『閃光の旅団』の潜伏拠点らしき場所の情報提供がありました。地形の特徴、規模、遠目に見えたという周辺の見張りの配置まで、かなり詳細な内容で……」
「なんだと?我々が来たのは昨日だぞ?この辺境一帯の正確な拠点の位置なんぞそう易々と掴めるはずがない、どこの誰が言い出した話だ」
疑いの色を隠さずに問い詰めるアルセンに兵士は困ったような顔をしながらも食い下がった。
「しかしこの情報やたら精巧でして地形の起伏、川の位置、隠れる岩場の配置まで、
まるで実際に上空から見てきたかのような、とても素人の作り話とは思えない精度なんです」
「そこまでか」
「はい……それに情報を持ち込んできた者たちが少々。いえ、かなり奇妙でして」
兵士に手で合図されアルセンは天幕の外に居る情報提供者のを見た。
駐屯地の入り口に立っていたのは、上質な仕立ての衣装を纏った黒髪の少女とフルアーマーに身を包んだ戦士だった。
こんな辺境に貴族令嬢としか思えない出で立ちの少女が護衛一人だけを連れて立っている。
旅装にしては上品すぎ、護衛を一人しか連れていない事もおかしい。
「……あの二人は何者だ?」
アルセンは思わず、低く呟いていた
情報提供自体はありがたい話だ、しかしこうした申し出には眉唾なものも少なくない。
功名心や小遣い稼ぎ目当てでいい加減な話を持ち込んでくる輩もいる。
今回はここまで正しい情報が渡せるならば半端な悪戯ではない、だが巧妙過ぎて罠の可能性もある。
しかし盗賊側の罠だとしてもこれほど堂々と出てくる事もないだろう。
アルセンはしばらく思案した後、意を決したように部下へ声をかけた。
「――『探査球』を出せ」
その一言に、周囲の兵たちの間にどよめきが走った。
※
やがて外に運ばれてきたのは、丸みを帯びた金属質の球体だった。
表面には見慣れない機構の継ぎ目が走り、側面には長々とした横文字の刻印が施されている。
その取扱いの丁重さから貴重品な事が見て取れた。
「今から情報の裏付けを取る、もし話が事実であればそれ相応の礼はしよう」
一緒に出てきたアルセンが情報提供者、つまりはケイオスに厳かにそう告げる。
直ぐに球体はふわりと宙に浮かび上がり、淡い駆動音を立てながら指定された方角へと飛んでいった。
その様子を見つめながら、ケイオスは内心でぽつりと呟いていた。
(あれって探知くんか?)
「王国の秘宝か」
レイラのつぶやきにケイオスが反応する
「秘宝?」
「ああいう特殊な力を持った道具の事を言う、私の故郷でも使ってる者が少ないが居た」
「ふーん…珍しいのか?」
「ああ早々見れる物じゃない」
(結構便利なアイテムだけど…秘宝って言われると違和感あるな)
やがて駆動音とともに探査球が戻ってきた。
球体はアルセンの前でふわりと止まると、側面から淡い光の映像が投影される。
地形の起伏、川の位置、岩場に紛れるようにして配置された見張りの影。
ケイオスが語った情報と、寸分違わぬ光景がそこに映し出されていた。
アルセンの表情が、明らかに強張った。
「なるほど、正確じゃないか」
低く漏らした声には驚きと、情報をもたらしたケイオスとライラへの警戒が滲んでいた。
ケイオスは製図とかできないのでそこらの辺はレイラがやってくれました




