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精鋭部隊

翌朝、二人は早々に宿を発つつもりでいた。


「んじゃ行くか」

「ああ」


余計なやり取りもなく荷物らしい荷物もない身軽な二人はさっさと村を後にしようと歩き出していた。

だが、村の様子がどうにも落ち着かない。

朝から表通りに人だかりができ商人や村人たちが額を寄せ合って何やら話し込んでいる。

宿を出てすぐ聞くともなしにその会話が耳に入ってきた。


「兵隊が来るんだとかなりの数らしいぞ」

「なんでも、輸送隊が壊滅させられた件の調査だってさ得体の知れないモンスターに襲われたとか」

「そんなのがこの辺りをうろついてるってのか?おっかない話だな…」


ケイオスとレイラは思わず顔を見合わせた。

輸送隊壊滅、得体の知れないモンスター、他ならぬケイオスが引き起こした一件のことだ。


「へーこんなに早く動くのか、結構しっかりした国なんだな王国」

「関心してる場合か?」

「まあしょうがない、やっちゃったことは戻らんし」


ケイオスは少女の声のまま他人事のように呟いた、合わせてポーズまで取っている。

レイラは眉をひそめよく解らない姿勢を取っているケイオスを睨んでいた。



そうこうしているうちに、遠くから地響きにも似た振動が伝わってきた。

村人たちがざわめきながら道の端へと寄っていく。

視線の先街道の向こうから、統率の取れた蹄の音が近づいてくる。


砂埃を上げながら現れたのは鎧に身を固めた騎兵の一団だった。

整然とした隊列を組み先頭には旗を掲げた騎士が一人。

その数ざっと見て三十騎はくだらない。

物々しい空気を纏いながら騎兵たちはまっすぐにオルディン村の中心へと進軍してきていた。






村の広場に、緊張した空気が広がっていた。

村長らしき初老の男が恐縮した様子で騎兵の一団を出迎えている。

そしてもう一人、そこに居たのは壊滅した輸送団の隊長のガルドだった。

昨日の一件からまだ日も浅く、その顔には隠しきれない疲労と苛立ちの色が見て取れる。



「して、事の詳細を今一度伺いたい」



対応に当たっているのは騎兵団を率いてきたらしい指揮官だった。

装備で顔は見えないが冷ややかな声音にガルドは僅かに顔を強張らせながら答える。


「は……輸送隊は、正規の護送手順に従い進んでおりました。

しかし何者かも判然としない怪物の襲撃を受け、瞬く間に部隊は壊滅。

捕獲用の道具まで投入したものの、及ばず……」

「言い訳は結構だ、貴殿の落ち度がどこにあったかは、本国が精査の上で判断する」


指揮官の言葉は取り付く島もなかった、ガルドは唇を噛みながらも、それ以上反論する術を持たなかった。


「今回の輸送隊が運んでいた獣人たちは、いずれも選定を経た良質な戦争奴隷だった。

捕獲、輸送、管理に要した費用も相応のものだ。

それが一夜にして丸ごと失われたとなれば貴殿の評価に、無視できぬ影響が及ぶことは覚悟しておくことだ」


その言葉に、ガルドの顔から完全に血の気が引いた。

一方で指揮官は別にガルドを追い詰める気もないのかそのまま話題を切り替える。


「もっとも我々がこの地に来たのは、その一件のためだけではない」

「と、申しますと」

「この一帯に潜んでいるとされる悪名高い盗賊団――『閃光の旅団』の討伐だ、かねてより精鋭部隊を編成し掃討に当たる予定であった、その我々がこの近辺に展開していたところに貴殿の一件が重なっただけのこと」


指揮官は淡々とそう告げると、後方に控える精鋭らしい騎兵たちへ一瞥をくれた。

統率の取れた佇まい隙のない装備、先の輸送隊の兵たちとは明らかに練度の違う気配を纏っている。


その様子を、人だかりに紛れたケイオスとレイラは、じっと聞き耳を立てながら見守っていた。


「盗賊団の討伐、か」

「物々しい話だな…お前が暴れた件もあるし、早くここを出よう」


レイラがそっと話しかける、ケイオスは顔を向けてこともなげに返す


「いいや出発するのは延期だ」


レイラは驚く、あの正規団とは関わり合いにならない方がまずいいはずだ。

しかしケイオスはまるでこんな機会を逃すはずもないと言わんばかりに楽しげに笑っていた。


「せっかく国の精鋭と出くわせたんだ、ここでお別れ何て勿体ないぜ」




村の混乱をしり目に出発を延期したケイオスとレイラは酒場の隅で情報収集をしていた。

昼間から酒精を煽っている常連客たちの会話を聞いたり時には話しかける。

話題は自然と村に来た騎兵団とその討伐対象である盗賊団の噂に集まっていた。


「『閃光の旅団』か、大層な名前まで付けて暴れてたからな最近は、こうなると本国から精鋭を差し向けられるのも当然だよな」


「ここら辺はな、とにかく広くて昔人が住んでた場所とかもあちこちにあったりな、ああいう連中が居つくには事欠かねえんだお嬢ちゃん」


「一箇所に居着かねえのも厄介なんだよな、あっちの拠点、こっちの拠点って渡り歩いて、しぶとく生き延びてる」


「団員も厄介だが何より団長がとんでもねえって噂だぜ、討伐に向かった冒険者や衛兵がことごとく返り討ちにされてるらしい」


「そりゃ本国も本腰入れるわけだ……」




そんな会話を終えてケイオスは黙ってグラスを傾けながら聞いていた。

隣のレイラも、表情は変えないまましっかりと耳を澄ませている。

やがて酒場の店主が席にやってきて水を注ぎ足しながらぽつりと声をかけた。


「お嬢ちゃんたちも、今日はもう出かけない方がいいよ」

「なんで?」


少女の声でケイオスが小首を傾げる、店主は困ったように笑いながら答えた。

レイラの隠れた顔が僅かに眉を寄せる。

ケイオスはこの姿の時は取ってつけたような態度をちょくちょくと取る。


(油断させる、相手から情報を得る、姿に合わせた正しい振舞いではある…よくやるものだ)


ケイオスの正体を知るレイラは微妙な気持ちのままそれを見守っていた。

ちなみにケイオスは単に今の姿に相応しい可愛らしい言動をするのが趣味なだけである。


「盗賊討伐で兵隊は殺気立ってるし、もしかしたら盗賊団がこの辺りに流れてくるかもしれない、

おまけに例の化け物騒ぎもあるだろう、こんな物騒な時に、嬢ちゃんみたいな子が出歩くのは危ないさ」


「…そうだな、そうね」


ケイオスは曖昧に頷きながら答えた。

い。


盗賊団『閃光の旅団』

本国の精鋭部隊

もう少し情勢を見極める価値はありそうだと


グラスを両手で持って可愛らしく飲みつつケイオスは微笑むのだった。

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