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3/20

輸送団


窪地の一角で輸送団の司令官ガルドは苛立ちを隠そうともせずに部下を睨みつけていた。


「何度言わせる拘束具を嵌める前に武器を取り上げろと、何処に隠し持ってるか解らない絶対に取り上げてから拘束しておけと、それだけのことがなぜできてない!」


いつも通りの仕事のはずだった、戦争奴隷として捕らえた獣人種の一団を輸送する任務。

だが一人の獣人の女が爆発的な膂力で拘束具ごと部下を突き飛ばし隠し持っていた得物を振りかざして暴れ出した。


獣人種の身体能力は非常に高いゆえに他にも二重三重の対策を講じている。

それらが功を奏し暴れた獣人はほどなく取り押さえられた、だがそれでもガルドの怒りは収まらなかった。

剣を抜き、まずは部下へ切っ先を向ける。


「次にこの程度のミスをしでかしたら、貴様の首が飛ぶと思え」


部下が青ざめて頭を垂れる。

ガルドはその視線を地面に押さえつけられている獣人たちへと移した。

憎悪と侮蔑の入り混じった目で剣を今度は彼らへと向ける。


「お前たちも身の程を弁えろ。逆らえばどうなるか今から教えてやる」


視線が先ほど暴れた女へと固定される

まだ反抗的な光を宿したまま荒い息を吐くその獣人へガルドはゆっくりと歩み寄った

剣を振り上げる。


だがその刃が振り下ろされるよりも早く


轟音とともに窪地の外周から巨大な影が土煙を上げて突入してきた。

怒声が上がり整然としていた陣形が一瞬にして崩れ始めた。










草むらの中でケイオスは丸い瞳孔を細めて観察していた。


「…弱いな、想像以上に」


未知の地であることを警戒し慎重に様子を窺うつもりだった。

だが蓋を開けてみれば中級のキメラ一体の乱入だけで陣形はあっという間に崩壊した

剣を構える暇もなく吹き飛ばされる兵、盾ごと弾き飛ばされる者、地面に叩きつけられて動かなくなる者。

死者は出ていないようだがほとんどの兵が意識を刈り取られ地面に転がっていた。


「加減しとけって言っといて良かったなこりゃ」


ケイオスは小さく息を吐いたもし指示を出していなければこの窪地はとうに屍の山になっていただろう。

キメラは指示に忠実だった、巨躯の身体は本来の力を抑えつつも兵たちを次々となぎ倒しながら暴れ続けている。


だが、そこで動きがあった

司令官――ガルドの傍らにいた管理官らしき男が、懐から何かを取り出した。


拳ほどの大きさをした黒い金属塊だった。

表面には赤黒い紋様が刻まれその隙間から禍々しい紫色の光が漏れ出している。

明らかに通常の装備ではないソレ、男はそれを握ったまま一瞬だけ動きを止める。


「クソッ、ただのモンスター風情ががいい気になりおって」


苦々しく呟く。

その姿に兵が気づきはなしかける


「司令官!それは本来――」

「分かっている!」


ガルドが苛立たしげに声を荒らげた。

視線の先では謎のモンスターが兵士たちを次々と薙ぎ払い包囲を崩そうとしている。

このままでは被害が増える一方だった、ガルドは歯を食いしばる。


「……やむを得ん!」

「はっ!」


管理官らしき男が意を決したように頷いた。


「《封縛晶――グラビティ・バインド》!」


黒い金属塊が激しい光を放ち、次の瞬間、そこから無数の光の鎖が伸びた。

鎖は空中を走り中級キメラの巨躯へと絡みつく。

四肢だけではない、胴体や翼にまで幾重にも巻き付き、その動きを強引に押さえ込んでいく。


「グォオオオオッ!」


キメラが大きく咆哮した。

それまで兵士たちを蹴散らしていた巨体の動きが、目に見えて鈍る。


「今だ!」


好機と見た兵たちが、素早く態勢を立て直す。

鈍ったキメラを取り囲み数の利を活かして一斉に攻撃を仕掛けていく。

完全には動きを封じられていないものの、その巨躯は確実に包囲の中へと押し込まれていった。


草むらの中で、ケイオスの大きな目がすっと細められた。


「……あれ、似てるな」


視線の先にあるのは、キメラの巨躯に絡みついた光の鎖。

形状こそ記憶にあるものとは微妙に違う。色合いも、光の走り方も、細かな意匠も異なっている。


「捕縛系のアイテムエフェクトそっくりだ」


ゲーム時代の記憶を辿る。

モンスターの動きを封じたり鈍らせたりするためのアイテム。

性能には幅があり雑魚相手から強力なモンスターを対象にする高級品も存在していた。

ただ、目の前で使われたものはゲーム内のエフェクトから推測するに控えめな部類に見える


「…それに全く同じじゃない、か?」


ケイオスはじっと光の鎖を観察する。

よくよく見ればそれもアルカディアの記憶のそのままではない。

しかしゲームに存在したものとよく似た魔法や道具が実際に存在している。


「……ますます、分からなくなってきたな」


ケイオスは小さく呟いたまだ判断するには材料が少ない。

だが少なくともこの世界が自分の知っているアルカディアと完全に無関係というわけではなさそうだった。




厄日だ、とガルドは内心で毒づいていた。

獣人の暴走からこの得体の知れない巨躯の乱入、着任以来これほど手順の狂う日はなかった。

だが貴重なマジックアイテムの効果が現れ、兵たちが包囲を固めつつありガルドの表情には再びいつもの高圧的な色が戻りつつあった。


「ふん、化け物が、所詮は王国の技術にはこの程度よ」


改めて、目の前の異形を睨む。

継ぎ接ぎだらけの巨躯に頭部の存在しない異様な姿。

これまで見聞きしてきたどのモンスターにも該当しない代物だった。


こんな化け物がただの草原に潜んでいるはずがない。

北方か南方の勢力か?それともまったく未知の何かか?

考えを巡らせながらも、ガルドの頭の中では、すでに損得勘定が動き始めていた。


先ほど使わせた捕獲機は輸送隊の虎の子の一つ。

国で大きな出費として計上されるだろう、だがこの異形の怪物を捕らえ持ち帰ることができれば、その損失を補って余りある成果になる。

前例のない強力なモンスターの捕獲。それは、ガルドの評価を大きく押し上げる材料になるはずだった。


「逃すなよ、多少無理をしてでも押し切れ」


動きの鈍った巨躯が、じりじりと追い詰められていく。優勢は、間違いなくこちら側にあった。



「まあ十分わかった」


不意にそんな声が響いた。

誰の声かどこから聞こえたのか確かめる暇もなかった。


「《咆哮《Roar》》」


直後、空気そのものを震わせるような咆哮が轟いた。


「■■■■■■!!」


音ではなかった。

それは衝撃そのものだった。


大気が震え地面が揺れる。

耳を塞ぐ暇すらなくガルドと戦っていた兵たちの身体が一斉に硬直した。


声すら漏らす事も出来ず

その直後糸の切れた人形のように次々と地面へ倒れていく。

ほんの数秒前まで武器を構えキメラを取り囲んでいた兵士たちが全員その場に崩れ落ちていた。

地面に落ちる一瞬の間に誰かがそれを見る。


巨大な影

鎧が擦れる音

草を踏みしめる巨大な足

わかったのは、そこまでだった。


TIPS:ケイオスは計画を先まで考えないで動く性格

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