↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/32

【外伝】鼠の争い

エルミナはいつものように、ダンジョンで使えそうな物を集めた。


金属片、古い歯車、用途の分からない小さな部品。

いくつかを袋に詰め、いつものように自分の工房へ戻る。


「ただいま」


岩壁を利用した小さな空間。

自動人形の修復も間近、明るい気持ちでそこに足を踏み入れた瞬間、エルミナは言葉を失った。


「…………え?」


ない。

中央に鎮座していたはずの機械人形だけが、跡形もなく消えていた。


「……ない」


エルミナはその場に立ち尽くす、何度見回しても、どこにもない。

工具やパーツはある、しかし工房の中心にあったはずの機械人形が無い。


「……なんで……?」


やがて、作業台の上に一枚の紙が置かれていることに気づいた。

震える手で拾い上げる、そこには乱雑な文字が書かれていた。


『大事な物が欲しけりゃ街の外れまで来い』

『一人で来い、誰かに話したらこいつは壊す』


最後に見覚えのない印が雑に描かれていた。

エルミナは紙を握りしめる、生きることしか考えていなかった自分に、初めてできたもの。

自分が初めて見つけた、目標。


「…っ!」


大きな帽子を深く被り直しエルミナは走り出した。








街の外れ、そこはかつてダンジョンから運び出された廃棄物の集積所だった場所だ。

今では滅多に人も来ない、整備もされず崩れかけた壁と錆びた金属の山が、夕日に赤く染まっている。

エルミナは足を止める、荒れた息を整える余裕も無くあたりを見回す。

指定されたのはここ、ここに居るはず…その時


「お、来た来た」


気の抜けた声が廃材の陰から聞こえた。現れたのは二人の男。

どちらもろくに手入れもしていない身なりで一人は手に鉄パイプを持っている。


「ちゃんと来たみたいだな」

「そりゃそうだろ、大事なもん取り返しに来たんだからよ」


二人はにやにやと笑いながら、エルミナの全身を品定めするように眺める。


「……どこに、やったんだ」


エルミナは低い声で問う、帽子のつばの下から金色の瞳が鋭く光る。


「あ?ああ」


一人が親指で背後を指す。そこには、使い古しの毛布がかけられた人型の何かが横たわっていた。

毛布の端から磨かれた金属の腕が覗いている。エルミナの肩が震える。


「……!!」

「そう怖い顔すんなよ何もしてねえってちょっと借りただけだ」

「というかよ、お前すげえな、スクラップ同然だったこいつをここまで直すとか」


男たちの言葉に、エルミナは小さく拳を握った。

鉄パイプを肩に担いだ男が一歩前に出る。


「まあ同じ鼠じゃねえか、仲良くしよううぜ?」

「お前自動人形を直せるんだろ? だったら俺たちの言うことを聞けよ悪いようにはしねえ」


勝手な理屈を並べたてながら男たちがまくしたてる。

ヴァルガイルのダンジョンは広大だ、一説によると拡張すら起こっているというものまでいるほどに。

しかし時には探索者同士が鉢合わせる、協力する事もあれば報酬を奪い合うなど争う事もままあった。


(もうあそこはほとんど誰も来ない場所だからって気を抜きすぎてた…!)


エルミナが歯を食いしばりながら堪えて答える


「何を企んでるんだ」

「こいつを動かす方法を教えろ。そしたら返してやる」

「…動かす、方法」

「そうだ、簡単だろ?」


男たちが機械人形を奪おうとしてる事くらいは直ぐに理解した。

当然そんな事を教える訳にはいかない、しかし


「あの子は……まだ、動かない」

「は?」

「誤魔化してんじゃねえだろうな?」

「…………………」


教える教えないの前にまだエルミナは人形を起動させられていなかった。

返答しないエルミナに男たちは顔を見合わせる。


(もう出来そうな所は全部触った…動いてもおかしくないんだ、そのはず…でも、どうしても動いてくれない)


エルミナは自動人形の修復を終わらせていたと言う感覚があった。

だがどうしても動き出さない、最後の一歩で躓いている所だった。


「なんだよ使えねえな…クソ重いのにここまで運んで来たってのによ」

「まあ待てよ、まだ動かねえってことはよ、これから動くようになるってことだろ?だったら、こいつが完成するまで預かっておくってのはどうだ?」

「そうだな、まあもし無理だとしても売り飛ばしちまおうぜ、動かなくてもここまで綺麗なら技師に売れるだろ」

「売り……飛ばす……?」

「そうだよ、どうせお前みたいなガキが持っててもしょうがねえだろ?」

「いい金になるぜお前には感謝しねえとな、スクラップを寶物に変えてくれてよ」


勝手な考えを言い合いながら二人は声を上げて笑った、夕暮れの廃墟に虛しく響く。


「……返して」

「あん?」

「あの子は……僕の……」


帽子のつばをぐいと引き上げ、金色の瞳で男たちをまっすぐに見據える。


「うるせえな!」


片方の男が乱暴に鉄パイプを構えてエルミナに向かう

その瞬間、エルミナが震える手を男へ向けた。

隠し持っていた手のひらに収まる機械から青白い閃光が走り、放たれた電撃が男の身体を打ち抜く。


「ぐあっ!」


男の身体が大きく跳ねる、だが、倒れず踏みとどまる。


「っ……てぇな……!」

「っ!?」


電撃そのものは確実に男へ伝わっているが耐えられていた。


「っはんな玩具で俺を止められると思ってんのか?」

「お前だって探索者だからな、俺らが何も用意してないとでも思ったか?」

「そんな…」


腐ってもダンジョンを探索する者、最下層の鼠とはいえ若い男達には備えがあった。

彼らの衣服にはダンジョンの罠を想定し耐久性を高めた繊維が使われており簡易的な絶縁処理まで施されている。

男が痺れる腕を振りながら、再びエルミナへと近づいていく。



「意味もなくこんなところまで呼び出したとでも思ってんのか?」

「お前の工房だとどんな小細工してくるか解らねえからな…でも今は限度があるだろ?ほれ何かあるなら出して見ろよ」

「………っ」


思わず後ずさる、まだいくつか装備はある

しかしダンジョン探索に合わせた装備をこの男たちはしている

自分の武装は正にそのダンジョン産の物であり効き目が薄いであろう事をエルミナは理解していた。


(どうして…あと少しで、後少しなのにこんなところで)



男たちがじりじりと距離を詰めてくる。


「多少痛い目見た方がいいようだなあ?」

「…っ」


絶体絶命、様々な手段を考えても乗り切る手段が無い。

そして最後に脳裏に浮かんだのはただ一つの名前だった。

動き出したら付けようと思っていたその名前、希望であり夢であり鼠の自分に意味を見つける事の出来たその人形の名前。


「……アルマ……」

「あん?」


男が怪訝そうにする、もう目の前まで来ていた、それでも、もう一度叫ぶ。


「アルマ!!」


その言葉と同時に


ブゥン


微かな駆動音が男たちの背後から唸った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。