オルディン村の顛末
電撃のような作戦を終え、アルセンの部隊はオルディン村に帰還し束の間の休息を取っていた。
奇襲は完璧に決まり、抵抗もろくにさせず、犠牲者はおろか目立った負傷者すらほとんど出ていない。
「隊長、全員の無事を確認しました軽傷者が数名いる程度です」
報告に来た副官が安堵したように告げる
「そうか」
「はい、これほど綺麗に片付くとは思いませんでした」
誰よりも厳格な隊長、アルセンに対しても、その声には隠しきれない喜びが滲んでいた。
「皆、無事に戻れたことを喜んでいます、これだけ被害を抑えられたのは大きいかと」
「気を緩めるな、任務はまだ終わっていない」
「承知しています…しかし今くらいは、無事だったことを喜んでもいいでしょう」
アルセンは一瞬黙り、それから僅かに表情を和らげた。
「そうだな、しかしこれも普段の訓練を怠らなかったからこその結果だ、驕らずそこを忘れるな」
副官は敬礼すると、それ以上は何も言わずに持ち場へ戻っていった。
一人になったアルセンは、周囲の状況を改めて確認する。
想定していたよりも早く作戦が終わった、捕らえた盗賊の処理や押収品の確認を前倒しで進められる。
しかし脳裏に浮かぶのは、輸送隊を襲ったという謎のモンスター。
それだけの戦力を持つ存在がこの近辺を徘徊しているのなら放置はできない。
正体も目的も不明な以上周辺の警戒を強める必要がある。場合によっては、王都への報告や追加の調査隊の派遣も必要になるだろう。
(…やる事は山積みだが、一つずつこなしていくしかあるまい)
喜びに部下たちが浸る中一人アルセンは冷静に今後の事を練っていた。
そんな時、ふと思い返す。
(今回の作戦がここまでうまく行ったのは…事前に精度の高い情報があったからこそ、探査球を最大に生かせたからこそだ)
実の所、探査球は決して万能な道具ではない。
探知できる範囲にも限度があり稼働させられる回数も極僅か。
一度使い切れば再び使用できる状態まで戻すには魔法使いが何日もかけて魔力を注ぎ込まなければならない。
だからこそ、使いどころを誤るわけにはいかない。
アルセンにとってあれは容易には使えない虎の子だった。
「…あの二人組」
アルセンは呟く、例の少女と護衛の二人、駐屯地の片隅にもうあの二人の姿はない。
忙しなく後片付けを進める部隊の喧騒の中二人が去っていったことに気づいた者は、ほとんどいなかった、唯一話しかけられたと言う団員が伝言を受け取っていた
『急にやる事が出来たんでな、謝礼はもういいよ』
部下は戸惑いを隠せなかったそうだ、任務にとって重大な情報、相応の礼を用意するのが筋だと食い下がるが少女は淡々とした調子でそれを断り代わりにもう一つ言葉を残していった。
『まあ…ひょっとしたらまだ会うかもしれないし、お礼は其の時にでもまた』
「食えない連中だ」
ロウガは小さく呟きながら周囲へ視線を巡らせた。
正体も目的も分からない。
突然現れ、こちらに情報を与え、報酬すら受け取らずに去っていく、怪しい点を挙げればきりがない。
(恐らくは……また姿を現す、そうでなければ、わざわざ我々に便宜を図る理由がない)
今のところ彼らは一度として自分たちに害を与えていない、それどころか利だけだ、今回の作戦もあの情報がなければここまで完璧には進まなかっただろう。
だからといって、正体不明の存在を無条件に信用することもできない。
「今はそれでいい」
無意味に疑い、存在しない敵意まで探るのはアルセンの性分ではなかった。
警戒はする、次に現れた時も、その行動を見極める。
何者であろうと、何を企んでいようと、自分のやるべきことは変わらない。
国の剣として、この国と民を守る。
敵か味方かはまた判断するだけだ。
アルセンは胸の内でそう決意すると、再び部隊のもとへ歩き出した。
※
オルディン村を後にした街道を二頭の馬が並んで進んでいく。
一頭はフルアーマーの護衛が手綱を握り、その前に収まる黒髪の少女を乗せている
もう一頭はその馬を先導をしている…操っている者はアルセン達が一人取り逃した盗賊団の頭領、ガレオだった。
ケイオスはガレオの持ちかけた話に前向きだった
「俺もだけどレイラも王国の事は知らないだろ?訳アリの俺達でも問題無い王国の人間ってのは悪くない」
だが、レイラの表情はいまひとつ晴れなかった。
「……本当に、あいつでいいのか?」
正義感という訳ではない、それでも盗賊をやるような奴だ、態度も軽薄で信用できなかった、その様子を見かねて、ケイオスが軽く言葉を挟んだ。
「別に俺らは正義の味方でもなんでもないだろ」
「それはそうだが」
「お前が俺に頼んだのは、妹の捜索だ、手段を選んでる場合でも無いだろ…それに、俺が居るからな、下手な反乱なんてする気になると思うか?」
「………っは、その通りだな」
言葉だけなら凄まじい傲慢だ、だが自分が今胸に抱える小さな少女はそれだけの力を持っている。
「よくよく考えたらお前と組んでるんだ、今更盗賊団の頭程度でどうだと言う話か」
「おいその言葉はこの華憐な少女に言う言葉ではないぞ」
ケイオスのたわ言をスルーして幾分気楽になったレイラは手綱を改めて握るのだった。




