レイラVSガレオ
山道の静けさを裂くように二つの剣閃が響く。
ケイオスは少し離れた位置からその攻防を見つめていた。
(言うだけはあるみたいだな)
レイラが放つ剣は鋭さも速さも申し分ない。
対するガレオは、それを真正面から受け止めるのではなく、弾き、受け流し、わずかな隙を突いて反撃を繰り出していた。
純粋な膂力なら僅かにレイラが上
だが、剣技と戦闘の駆け引きでは明らかにガレオが上回っていた。
「おいおいそう睨むなって」
ガレオは剣を振るいながら、余裕のある笑みを浮かべる。
「にしても、生まれつきそんな強いのは羨ましいねえ獣人ってのはいいもんだよ」
「――っ、舐めるな!鍛えていないとでも思ってるのか!」
レイラが激しい剣幕と共に攻める。
ガレオは身を僅かに逸らして躱し、そのまま剣を返す。
レイラは受け流すが、続けざまに放たれた二閃目が迫る。
「はっ、そら」
レイラは紙一重で躱した。
(ちっ…やりづらい、人でここまで身体能力が優れてるのもそうだが…いなす技術が特に高い)
身体能力では僅かに勝っている。
それでも技術の差がその僅かな優位を覆していた。
※
ケイオスは、目の前で繰り広げられる攻防を、微動だにせず見つめていた。
(…あの砦の兵隊も大概人外だったが、この二人見てるともうドラゴン〇ールの戦いに近いな)
剣と剣が幾度となく交錯し、風を切る音だけが山道に響き渡る。
常人であれば、目で追うことすら叶わないだろう速度の応酬だった。
(最も、今俺が何が起きてるのか理解出来てる…それを当たり前の感覚として受け入れている、これもおかしな話だなしかし)
人の域を超えた者同士がぶつかり合う光景
アルカディアのゲーム画面のような人知を超えた争いが理解出来てる己の身についてケイオスは改めて思った。
「――そこだ」
ガレオの剣閃が走る。
レイラは咄嗟に身を捻って躱したが、刃が鎧の表面を薄く掠めた。
攻防は佳境に差し掛かっていた。
レイラがついにガレオの防御をこじ開けようとした瞬間だった。
決まる、そう思われたその一撃を前にガレオはにやりと笑みを浮かべた。
そして次の瞬間。
ガレオの体が何もないはずの空間を蹴りつけるようにして横合いへと跳んだ。
レイラの目にはそうとしか映らなかった、宙に足場があるかのような、あり得ない挙動。
実際それは紛れもない事実だった。ガレオの持つ宝具――何もない虚空を踏みしめて移動する力がその一瞬に発揮されていた。
「なっ……!」
しかしまだ致命的な隙ではないレイラはすぐに身体を引き戻し油断なく身構え直そうとし
空を蹴った勢いのままガレオの体は弧を描くように、レイラの背後のその幼い少女にまっすぐに突っ込んでいった。
ガレオは内心で笑みを深めていた。
(俺の勝ちだ、どう急いでもあの護衛は俺に追いつけない)
この距離とこの速度では間に合わないのはこれまでで解っている、目の前の少女を人質として盾にしてしまえば手も出せまい、ここから身代金でも引き出してここから再起を図る足がかりにもできる。
(火遊びを恨むんだな、お嬢さん)
そんな算段を瞬時に組み立てながらガレオは空を蹴る勢いのまま少女へと肉薄していく。
だが
少女の様子がどこかおかしかった。
自分がこれほどの速度で迫っているというのにその表情には、怯えも動揺も見られない。
(気づいてない…?いや、これは)
長年修羅場を潜り抜けてきたガレオだからこそその違和感に気づいた
見られている。
ただ視界に入っているという意味ではない。
この少女は、自分の動き、軌道、速度、すべてをはっきりと把握しながらこちらを見つめている。
背筋に寒気が走った。
だが止まるには遅すぎた。
「魔法の矢・五連《Magic Arrows: Fivefold》」
淡々とした、あどけない声が響いた瞬間。
少女の背後に、五つの光が虚空から現れ、弾け高く細い音を響かせて5つの光弾が撃ち込まれた。
※
ケイオスは擬態の姿を取っている時戦闘力を大幅に落とす、数値で言うと最大レベルの半分、事実上ゲームの攻略としての使い道は無いスキルと言える。
しかし一人1アバターしか持てないアルカディアにおいてレベル半分とは言え実質もう一人好きにキャラメイク出来る事は非常に受けがいい。
「見た目も気合入れてるけど、制約内で出来る魔法職としてもキャラメイクしててな、気合入れて作ってあるんだぜ」
ガレオはその言葉の意味を理解する余裕どころか聞く余裕も無かった。
五つの矢のうち、四つをガレオは辛うじて躱す、しかし、体の中心部に放たれた一撃だけは、避けきれなかった。
鈍い炸裂音とともに、光弾がガレオの胴体を捉える。
「ぐっ……!」
くぐもった呻き声とともにガレオが突っ込んだ勢いが相殺される
そしてそのまま立ってまた構えるが明らかなダメージが見て取れた、
「おお、よくそれだけかわしたな、基本呪文とは言えこのレベル差だってのに」
離れた場所から、感嘆混じりの呟きが漏れ聞こえてきた。
だが、ガレオにそれを気にする余裕などなかった。
背後には、間合いを詰め直しつつある獣人の護衛。
目の前には、想定外の火力を秘めた少女。
前門の虎、後門の狼、形勢は完全に塗り替えられていた。




