第152話 密偵
「ちょっと待て。ミュリエル先輩は王都からナンスに向かったのか?」
ニーナの言葉を聞いて、カルロに確認する。
「ああ。すぐに引き払って帰国するって決めたらしい」
ホント……
「ミュリエル先輩は優秀な人って聞いていたんだがな……こんな状況で逃げだしたら密偵って自白しているようなものだぞ」
「どういうことだ?」
カルロが首を傾げた。
こいつもわかってないらしい。
「イラドとランスの同盟破棄はまだ発表されていない。こんな状況で逃げだす奴はイラド政府から情報提供を受けた奴だけだ」
アホかな?
せめて、同盟破棄の噂が広がった後なら身の危険を感じたとかいう言い訳ができる。
「確かにそうだな……ミュリエル先輩、行動力がある人なんだが、正直、バカ……というか、ドジな人だからな……」
そうなんだ……
そんな奴を密偵に雇ったイラドもバカだな。
「やってしまったものは仕方がない。適当な言い訳を考えるこったな」
「そうする。そこでなんだが、お前達もナンスからゲイツに脱出するなら俺達と一緒に行かないか?」
それも一つの手だろう。
「密偵のミュリエル先輩とか?」
マズいだろ。
「あの人は庶民だし、話が通じるからどうとでもなる。それに今はあの人も追われている立場だからそれどころではない。俺達はゲイツの南西の町のトールハイルの町に到着したらそこから東に向かい、ターリーを目指す。ミュリエル先輩はそこから飛空艇か海路でイラドに戻ることになる。だから北上するお前達とはトールハイルでお別れだ」
ふむ……
ミュリエル先輩もランス以上に敵国であるゲイツからはさっさと脱出したいし、問題を起こさないだろう。
「俺はミュリエル先輩のことを知ってはいるが、面識はない。本当に大丈夫か?」
「そこは俺達が説明するし、ミュリエル先輩も貴族に苦労してきた口だから大丈夫だ」
カルロの言葉を信じるか……
「じゃあ、一緒にナンスに行くか。検問は突破できるんだろうな? イラド側だったランスはゲイツと仲が悪いから普通に検問があるぞ」
ゲイツが今回の件を知っているのかは知らないし、裏に何があるのかは知らないが。関係性が悪いままと思っていた方がいい。
「そのために俺達がいるんだよ。ターリーはゲイツと同盟しているわけではないが、積極的な交流をしている仲の良い国なんだ。ニーナは間違いなく商人だし、買い出しなりの理由が立つ」
「ほう?」
カルロにそう言われたのでニーナを見る。
「私は冒険者ギルドにも商人ギルドにも所属していますし、ウチの店はターリー政府から外国との商売の許可を得ているんですよ。その許可証も持っています。これで止められることはないと思います」
確かにそれは良いかもしれない。
「兄であるカルロはともかく、俺達はどう説明するんだ?」
「私はナンスに着いたら大量の物資を購入します。その大荷物を持って検問に向かいますのでレスター先輩達はその手伝いということにします。具体的にはナンスで硝石を購入します。それとこれはトールハイルで別れるレスター先輩とエルシィには関係ないですが、トールハイルでは鉄鉱石を買います。それぞれ名産品です」
ランスとゲイツはそれぞれ上質な硝石、鉄鉱石が採れる。
それを買ってターリーに帰るという言い訳か。
「わかった。俺達だけで行くより、そっちに便乗した方が良さそうだ。ミュリエル先輩はカルロの恋人とかそういう理由にしとけ」
それなら急いで王都を離れた理由もなんとかなると思う。
「良いと思います。一緒に国を出たエルシィがそうであるように第三者から見たら理解できないことをするのが男女ですから」
「私は理解できるよー」
エルシィが異を唱えた。
「何も知らない人からしたら宮廷錬金術師という超エリートの地位を捨てるのは理解できない人も多いってことよ。でも、昔からそういうのはあるからね。最悪は逆ギレすればいいのよ。そしたら相手も突っ込まなくなる」
エルシィが泣けばいいな。
「カルロ、そういうことだ。ナンスでミュリエル先輩と合流したらそういう感じで話せ」
「俺が説明するのか……」
カルロはちょっと嫌そうだ。
でも、気持ちはわかる。
とてもではないが、『俺と恋人設定でいきましょう』なんて言いにくい。
「兄さん、恋人設定は私が提案するから」
さすがにニーナがフォローするようだ。
「頼むわ。一瞬、役得かもって思ったが、よく考えたらきつかった」
俺も自分からそんなことは言えないな。
「私達は普通に新婚ですから問題ありませんねー」
エルシィが腕を組んできた。
「あれ? 私は一人?」
ニーナが自分の顔を指差す。
「ニーナちゃんがこの商隊のリーダーだから」
「お花畑女子二人とか、嫌な商隊……」
ミュリエル先輩は違うぞー。
まあ、設定的にはかなりのお花畑なんだが……
俺達が話していると、ノックの音が響いたので扉の方に向かった。
「はい?」
『お料理をお持ちしました』
店員の声だったので扉を開ける。
店員はワゴンを押し、テーブルまで運んでいくと、人数分の料理を並べてくれたので席についた。
「おー、すげー!」
「貴族みたい!」
カルロとニーナは並んでいる料理を見て、目を輝かせている。
「それではごゆっくり」
店員は一礼すると、部屋から出ていった。
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