第151話 密偵
「お前らが密偵なことはわかった。それに俺達のことを黙っていてくれたことは助かった。しかし、そうなると、お前らがここにいる理由はその密偵の仕事関係か?」
話の流れ的にこいつらがここにいる理由はそれしか考えられない。
「それが本題だ。俺達は密偵だが、さっきも言った通り、そこまで真面目にやっているわけでもないし、イラドも俺達にそこまでの期待をしているわけではないだろう。だから基本的にはエルディアで働いているし、こうやって出張ってくることなんてないんだ」
そんな感じはするな。
あちこちに買い付けに行くニーナはともかく、カルロは船の職人だからそう長い間、町を空けられないだろう。
「それはわかる。つまりそんなお前達がここにいるってことはランスで何かあったってことか? もしくは、北のゲイツ」
ランスはイラドの同盟国であり、ゲイツは逆に敵国だ。
だからどちらもイラドにとっては重要な国になる。
「何かあったのはランスの方だな。これはまだ表立って発表されていないことだが、ランスがイラドに対して、一方的な同盟破棄をしたらしい」
は?
「ランスが?」
「そんなことありえるんですか?」
さすがのエルシィも驚いて聞く。
「俺もそう思っている。国同士の詳しいことは俺達にはわからないが、それでもイラドとランスは衝突もなく、仲の良い国ってイメージがある」
俺もそうだ。
新聞を読んでいてもランスと問題が起きたことなんて書かれたことがないし、積極的な交流が行われている仲の良い国ってイメージを持っている。
「何があったんだ?」
「わからん。俺らみたいな下っ端だけじゃなく、上の方も混乱している感じだった」
上層部も寝耳に水か。
「一番考えられるのはランスがゲイツについたってところだが」
「そんな雰囲気はないっぽいんだよな。ゲイツとランスもまあ、仲が悪いし」
うーん……
「わかった。これは俺達が考えてもわからないことだろう。それでお前達がここにいる理由は? その調査か何かか?」
密偵ならそうだろう。
「いや、違う。さっき言ったミュリエル先輩だ。ミュリエル先輩はこのランスの担当の密偵なんだよ。でも、あの人はイラドの人間だからちょっとマズい」
一方的な同盟を破棄ってことは敵対の意思があると思われてもおかしくないし、下手をすると、一気に緊張状態になることもありえる。
そんな中でイラドの密偵は危ないか。
「マズいのはわかるが、こう言ったらなんだが、それが密偵だろ。お前らだって、ターリー政府にバレたら縛り首もありえるぞ」
密偵というのはそういうものだ。
逆に情報を得るために拷問だって付いてくると思う。
「わかっている。でも、俺達はよほどのことがない限り、大丈夫だ。もし、イラドとターリーが緊張状態になったらその時は考えるがな」
そこまでは付き合えないってことか。
「ミュリエル先輩は?」
「あの人もそうだと思う。でも、マズい点があって、ミュリエル先輩はランスの王都にいるんだが、あの人はイラド人であることを隠していない。普通にイラドから引っ越してきた人間ということで王都のレストランでウェイトレスをしているんだよ。しかも、政府関係者がよく利用する高級レストランだ」
あちゃー。
「それは確かにマズいな。こんな状態では疑われてもおかしくない」
シロでもクロ認定されそうだ。
「イラドとランスは同盟国だったし、人の出入りも多いからな……」
カルロが首を横に振る。
「つまりお前らの仕事はミュリエル先輩の救出か?」
「そうなる。俺達は生粋のターリー人だから今回の件とはまったく関係ないからな」
確かにイラドとランスの問題であり、ターリーは関係ないからこの兄妹が疑われることはない。
「俺達もマズいっていうのは俺達がイラドの人間だからか?」
「ああ。お前らも結構怪しいぞ。元イラドの宮廷錬金術師であり、夫婦で各地を巡りながら旅行中。悪いが、密偵の類に見える」
確かに見えないこともないな……
「エルシィ、どう思う?」
「怪しいでしょうね。普通に考えて、宮廷錬金術師を辞めて世界を旅するってアホって思われてもおかしくないです。でも、その実態は国々を探っていると考えたらそれはそれでしっくりきます」
ランス政府にそう思われたらマズいわけだ。
もちろん、冒険者ギルドが身分を保証してくれるし、イラドの貴族とぶつかったと説明すれば捕まったりすることはないだろう。
しかし、確実に足止めを食らうし、イラド側がこの情報を掴んだら刺客が来る。
「カルロ、俺達も目立つことは避けたいし、できたらランスをさっさと抜けたい」
「ああ。わかっている。だからこのことを話したんだ」
カルロもニーナも自分達が密偵であることは話したくないことだろう。
それでも話したのは俺達のためだ。
「具体的にはどうするんだ?」
「それをこれから話したい。お前達はここから列車を使ってゲイツに向かうんだろう?」
「ああ。今日、あの湖を見たし、明日には列車でナンスの町に向かおうと思っていた」
「ふむ……ナンスか……」
カルロが腕を組んで考え始めた。
「兄さん、どうするの? ナンスってミュリエル先輩との合流地点よ」
合流地点……ミュリエル先輩がナンスに来るのか。
密偵で俺達を追っているミュリエル先輩が……
マジかよ……
というか、ミュリエル先輩、もう王都を離れたのかよ……
バカ?
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