第36話 小学生、護衛 〜7〜
またバスに乗って、今度は市役所に行くことになった。
子供たちはかなりのトラウマを植え付けられたはずなのに、まだ社会科見学を続けるのか……。
俺も天菜も迅斗も中止にするべきだと先生に言ったのに、先生は言うことを聞いてくれなかった。
『なにがあっても護るんだろ? それがお前ら護殺人の役割だろ?』って見下されるように言われた。
……ったく、どうかしてるよ。
子供たちはまだ元気が出ないようで、バスの中も静かだった。
唯一楽しそうに話してるのは先生たちだけ。
なんなんだよ……この世界……。
「風月、異常だな」
前を見ながら迅斗が言う。
そのときちょうどバスが赤信号で止まった。
「クリーチャー、一気に出過ぎだ」
「俺もそう思ってる。関係あるのかな……? クアールと」
「例の1型クリーチャーか。関係がないとは考えにくいな。3型クリーチャーが100体も出現したんだ。あれで俺たちの体力を削りに来たんだろ」
「そうだな……かなり疲れるもんな……」
「……いや、体力を削ることが目的なんじゃないと思ってる」
じゃあなんで最初に『体力削るつもりだった』って言ったんだよ。
迅斗もおかしくなった?
「普通100体が一気に現れたら死ぬぞ。5人いたとしても、生き残る可能性はかなり低い」
「つまり……?」
「完全に俺たちを殺しに来てた。そうとしか思えない」
そうか……100体相手するなんて、普通は死ぬのか……。
でも雨米は一瞬で勝った。
しかも無傷で。
やっぱりあいつのこと、よくわからない。
迅斗の言葉を最後にして、話が終わった。
この沈黙、気まずい。
「――風月、戦闘態勢に入れ」
終わったと思ったら、また迅斗が喋りだした。
しかも今回は深刻そうな口調だ。
「どうした?」
「嫌な予感がする……」
よく見ると迅斗はナイフを抜いてる。
他のところを見ると、天菜は銃を握っていた。
本当にヤバいんじゃないか……?
「――全員伏せろ!」
迅斗が突然叫び出す。
「頭を抱えて! 飛行機のときみたいに伏せて! 早く!」
天菜も叫んでる。
俺は咄嗟にナイフを抜いた。
刹那――バスの天井からなにか細いものが何本も突き出た。
それは1本1本が意思を持っているような動きをしている。
これは……なにかの触手……?
迅斗は真上にあるその触手をナイフで切断して立ち上がる。
「全員伏せたままだ! 絶対に立ち上がるな!」
迅斗は次々に触手を切断する。
天菜も立ち上がっていて、迅斗と同じようにナイフで触手を切断しながら銃を構えている。
「! 運転手さん!」
花楓の声が響いた。
触手に触れないように立ち上がって見てみると、かなり驚いた。
運転手の胸に、触手が刺さっていたからだ。
胸からは血が流れていて、運転手は動く気配はない。
胸の位置から、刺された場所は心臓だ。
一瞬で吐きそうになった。
やっぱり死体を見るのは慣れてないみたい。
あのときと同じだ。
理来がクアールに殺されたときと、同じだ。
どうしよう――また死人が――!
「――風月、落ち着け!」
迅斗の声で我に返った。
「今はとにかく生き残ってるやつらを護れ! 俺たちが怯んでる場合じゃないんだよ!」
「……ああ!」
迅斗のおかげでなんとかなった。
吐き気も目眩もだいぶ落ち着いてきた。
俺はすぐに運転手のところまで行った。
まだバスは走ったままだ。
それどころか、加速してる。
「……ごめんなさい」
俺はそう言ってから運転手を運転席から下ろした。
運転手は床に倒れる。
本当に死んでる。
俺はブレーキを踏んだ。
少しずつ速度を落としていくつもりだったけど、急停車してしまった。
道路に――目の前に一人の男が立っていたからだ。
その男は眼帯をつけてて、刀を握っている。
その男には見覚えがある。
これもあのときと同じだ。
「クアール……!」
その男の名前をつぶやいた。
「風月! とにかくここから撃つよ!」
俺の隣まで来た花楓が腰から銃を抜く。
俺も銃を手に取って、窓越しに撃った。
窓が割れる音と子供たちの悲鳴が聞こえる。
クアールは俺たちの銃弾を刀で防いだ。
1発も当たってないみたい。
やがて銃声が消えた。
代わりに乾いた音だけが響く。
弾切れだ……。
「みんな! 後ろの窓から出て! 絶対に前から出ちゃダメ!」
クアールから目を離さないまま花楓は叫ぶ。
俺も指示したいことがある。
「先生! 子供たちの誘導を――!」
言ってる最中、花楓が俺の腕を掴む。
花楓を見ると、花楓は首を横に振っていた。
「大人はみんな……やられた……」
これが何を意味しているのかはわかった。
先生は全員死んだんだ。
この触手が……!
ナイフを抜いてそれを切断しようとした。
「風月さん! 今はクリーチャーに集中お願いします!」
雨米の声でまた我に返った。
そうだ、触手は迅斗と天菜が対処してくれてる。
俺があのクリーチャーの相手をしなきゃ……。
「みんな私についてきてください!」
雨米の声のあとに窓ガラスが割れる音が響いた。
雨米が後ろの窓を割ったんだと思う。
小学生たちは一斉にシートベルトを外して席から降りた。
「……久しいな、護殺人」
クアールは無表情でそう言う。
「会うことを望んでいたぞ」
「俺もだよ……」
俺は運転席で立ち上がって、刀を抜いた――。




