第35話 小学生、護衛 〜6〜
「! 風月! これ全部……?」
帰ってきた花楓が目を大きくしてる。
大量のクリーチャーの死体を見て驚いてるみたいだ。
「あ、いや、えっと……」
「これ……90体くらいいるよ……? 見た感じ風月も無傷そうだし……」
「だから、その……」
花楓にバレないように雨米を見た。
雨米は人差し指を口の前に持ってきてて、微笑んでる。
『今の、内緒だよ?』
さっきの雨米のセリフだ。
雨米の言う通り、内緒にしたほうがいいかもしれない。
なんでかはわからないけど……、それでもそんな気がする。
なんでだろう……雨米の言ってることは守らなきゃいけない気が……。
「ま、まぁね。めちゃくちゃエネルギー使って疲れちゃったよ……」
「ほ、本当に怪我はない? 無理しなくていいんだよ……?」
「みんな大丈夫?」
隣に天菜と迅斗も来る。
二人とも討伐が終わったみたいだ。
「……この数、お前らでやったのか?」
「私じゃないよ……。風月が……」
「! 風月……一人でやったの……?」
ヤバい、なんか話が大きくなってる。
出現したクリーチャーが100体で、俺のところに90体くらい現れた。
ってことはみんなのところは2体とか3体とかだよね?
それの何十倍もの数のクリーチャーを一瞬で倒したって、確かにすごいことだな……。
しかも、この班の中で一番弱いのは俺だし、きっと。
「け、怪我ない……? 大丈夫……?」
天菜も花楓と同じように訊く。
確かに怪我してるのが当たり前だよな。
「だ、大丈夫! 本当!」
「でも心配だよ……」
「お、俺のことはいいから! みんな、小学生たちを安心させてあげよ?」
小学生たちを見ながら言う。
子どもたちはみんな泣いてた。
そりゃそうだよな。
いきなりクリーチャーが現れて、しかも血とか死体とか見たらトラウマになるし。
「あ、うん! 行ってくる!」
先に行ったのは花楓だった。
雨米はすでに小学生たちをあやしてる。
「……行ってくる」
迅斗も小学生たちのところに行く。
よかった、話はずらせた。
「――風月、エネルギー、かなり使ったでしょ?」
天菜が唐突に訊いてくる。
「ま、まぁね! こんな数倒すの、難しいし!」
「全体倒すのに技使ったの……? つまり、技しか使わなかったの……? そしたらかなりのエネルギー使わなきゃだけど……」
ここは……否定しておくか。
もし肯定したら『そんなエネルギー量、なんで持ってるの?』とか言われそうだし。
それに、俺はさっきの戦いですでにかなりのエネルギーを使ってる。
否定しなきゃ嘘がバレちゃう。
「い、いや! ちゃんと刀とかで殺したよ?」
「……嘘でしょ」
なんでー?
なんでバレるの?
今のやつでどうやってバレた?
「な、なに言ってるの……? 嘘なんて――」
「じゃあなんで返り血、ついてないの?」
! 確かに……!
よく見たら花楓も迅斗も天菜も服に返り血がついてる……!
刀で戦うにはどうしても近づかなきゃいけないし、敵に刺した刀を抜く時に血が飛び散る。
だから返り血を浴びてなきゃおかしいんだ。
……? じゃあなんで雨米は返り血を浴びてない……?
「どういうこと? 私たち以外に護殺人がいたってこと……? それとも……」
天菜はとある方向に顔を向ける。
そこには雨米がいた。
「雨米ちゃんが……戦ったってこと……?」
「そ、そんなわけないじゃん! そしたら雨米がもっと自慢するはずだし、俺も人の手柄は取らないって!」
そう言ったけど、天菜は多分気づいてる。
俺が嘘をついているということに。
さすが天菜、頭いいな。
「……きっと、迅斗も気づいてるよ?」
「? どういう……」
「迅斗があんなにあっさり子どもたちのところに行くと思う? 迅斗、絶対騒がしいのとか苦手じゃん。泣いてる子どもをあやすのなんてもってのほかだよ」
確かに、あいつそういうの嫌いそう。
天菜とか花楓なんだよな……そういうの好きそうなの。
あいつは裏で戦ってささえるタイプだからな……。
「不思議に思ったんだよ、風月のこと。私と同じ疑問が浮かんだんだと思う」
「…………」
「なんでここで詳しく質問しなかったかはわからないけど、でも、迅斗は気づいてる」
「……ごめん、どうしても言う気になれない」
「いいよ、変なことはしてないでしょ? 風月が私たちを裏切るとか考えられないし」
「そんなことしないよ!」
「だから、信頼してる。無理に話せって言うつもりはないよ。ごめんね? 急に変なこと訊いて。ちょっと不思議に思っただけだから。私も行ってくるね?」
天菜は最後にニッコリ笑って、小学生たちのところに向かった。
俺はもう1回クリーチャーの死体を見た。
今は確かに血が流れてる。
天菜のさっきの言葉が気になってる。
『返り血を浴びるはず』。
確かにその通りだと思った。
でも雨米は返り血を浴びてない。
なにが起きたんだ……。
そもそも雨米は何者なんだ……?
なんでクリーチャーを殺したことを隠したがる?
それに、最初こいつはクリーチャーと戦おうとしてなかった。
それなのにさっきは戦った。
この間雨米は、俺と同じくらいの時期にこの世界に来たって言ってた。
そういえばその日、雨米と一緒に駅で精神安定剤――じゃなくてキャラメルシェイクを飲んだんだよな。
雨米のオススメの。
……! なるほどね……ようやくわかった気がする。
俺はそのとき、違和感を抱いたんだ。
その違和感が何かは、そのときはわからなかった。
だけどようやくわかった。
なんで、俺と同じくらいの時期――最近この世界に来た雨米が、美味しいキャラメルシェイクの店を知ってたんだ?
『オススメ』って言ってたから、何度か行ったこともあるんだと思う。
雨米……お前なんなんだよ……。
ニッコリ笑ってる雨米の顔を見て、そう思った。




