第22話 絶望の夕餉。
絶望の空気がテント周りに満ちている。
シヤ達を使った唯一の人質作戦もあの人語を話す金色の竜に台無しにされていた。
あの竜はミチトの仲間達とは違い人質を無視して火を放つだろう。
「もう…だめなのか?」
「術人間は奪われた」
「化け物まで現れた」
「逃げる事も叶わない」
諦め一色の代理マスター達は最後だからと酒盛りを始める。
酒を飲むと支配力が落ちる。
シヤは真横で真っ青な顔をした少女に「諦めるな、俺達は生きるんだ」と声をかけた。
話せることに驚いた少女に「バレるから声は出すな。チャンスは来る」と言う。
そしてそれを裏付けるように声が聞こえてきた。
「聞け!キャスパー派!!」
突然聞こえた声に代理マスター達はどよめきの声を上げる。
「俺の名はミチト・スティエット!このディヴァントの剣!俺が眠りに落ちている間に侵略してきたキャスパー派!覚悟をしておけ!」
ミチト・スティエット。
やっとその名と声が聞こえた。
シヤはもうすぐ助かると言う思いでいっぱいになる。
そして声だけでも頼もしさは伝わる。
「そこだ!その杉の木の下でもたもたしてる15人!全て見えている!術人間に何かしてみろ!死よりも辛い目に合わせてやる!
次だ!その岩場の奴!28人!キョロキョロしても意味はない!俺からは見えている!その9人の術人間を丁重に扱え!殺そうものなら崩落させるぞ!」
杉の木の下…ここだ。
ミチトには見えている。
自分たちを見守ってくれている。
横の少女に「ミチトだ、ミチト・スティエットが助けに来てくれる」と声をかける。
少女は小さく「本当?」と言った。
「ああ。だから最後まで生きるんだ」
シヤはこの言葉を言った時にシーナの言葉が蘇った。
「ありがとうシヤ。シヤは生きて。最後まで生き抜いて」
そうだ。
シーナと約束をした。
最後まで生き抜く。
シヤは自身の中のシーナに誓うように「異論は無い。最後まで生き抜く」と言った。
この間も次々と居場所を言い当てて怯えさせていくミチトは最後に「もうお前達は見逃さない!逃げても無駄だ、そこで怯えて待て!」と言い切って話を終わらせた。
すぐに助けに来ると思ったミチトはその後来なかった。
シヤ自身、不安な気持ちになったが横で怯える少女に「あえて怖がらせて苦しめているんだろう」と言って誤魔化す。
今はこの少女がいる事に救われていた。
その頃のミチトは眠っている間に山積みになっていたアレコレを片付けて孤児院で保護をした術人間たちの支配権の強奪を行っていた。
散々支配権の強奪を行ったミチトの作業は並べられた食器に料理を盛り付けるよりも手早く、横一列に並べられた子供達の前に立つと頭に手を置いて「俺の術で支配権を変える。俺をマスターと認識したら俺をマスターと呼ぶんだ」と言って術を流し込んで行くとすぐに術人間は「マスター!」と言う。
シーシーは順番を待ちながらその姿を神々しくみている。
なんでお礼を言おう、今も苦しんでいるシヤ達を助けてと言わなきゃ、それよりもさっきの宣言を聞いたと言おうと色々考える。
だが思ったよりもミチトの施術は早く、他の子よりもアッサリと終わったシーシーは「マスター、助けてくれてありがとう」としか言えなかった。
ミチトは首を横に振って優しい笑顔で「いいんだよ。俺も君を助けられて良かったよ。君達は痩せすぎだからご飯沢山食べるんだよ」と言ってくれた。
シーシーはミチトがいなくなった後でシイ達をみて「私達助かったよ!」と言ったが記憶のなくなっていたシイ達は「うん」「良かった」と素っ気なかった。
つまらなそうにするシーシーの耳にはまたミチトの声が聞こえてきた。
「今のは見せしめだ!隠れても無駄だ!一部隊を崩落させてやった!生き埋めだ!術人間達に何かしてみろ、これ以上の生き地獄だ!」
この言葉にシーシーのように意識のハッキリとしている術人間の子達が喜ぶ。
「マスターが敵を倒したんだ!」
「マスターなら皆を助けてくれるよ!」
その後で聞こえてくる先程優しい言葉をくれた美女の声。
「聞こえるかしら?この世にいらないゴミ屑達、またこの世界から不要なゴミが消えて行く」
あの優しい美女がこんな怖い事を言うなんてとシーシーは思ったが確かに怖がらせるのは必要だと理解するようにした。
それは山の上のシヤ達も同じで崩落した現場はわからないが地響きと悲鳴は聞こえてきた。
そして続くヒノの言葉。
「ふふふ、苦しい?苦しいわよね?生き埋めだものね。アハハハハ!そのまま死になさい!ほら、意識が遠のいてきた。バカな人間たち、アハハハハ」
兵士達はこの言葉でこの場に来た事を後悔し、いよいよ死を覚悟していた。
そして少しして急に金色の竜が出てきて威嚇するように飛ぶ姿を見て逃げる事も叶わない事を思い知っていた。
暫くは絶望の空気がキャンプを支配する。
この地に来た事を後悔して遺書を残そうとして止められるものなんかもいた。
中には自棄になって35番を連れて物陰に行こうとする代理マスターも居たが「バカヤロウ、悪魔に見られているんだ!変な真似をしたら真っ先に酷い目に遭わされて殺されるぞ」と周りに止められていた。
暫くするとまた街からは殺せと言う声が聞こえてくる。
いよいよ攻めてくるのだろうかと兵士達は死を覚悟して頭が狂いそうだった。
暗くなってきたから最後の夕食を食べようとする連中もいたのだろう。
悪魔…ミチトは見逃すわけもなく「キャスパー派!夜ご飯なんて図々しい!術人間達に食べさせろ!殺すぞ!」と聞こえてきてその直後に街からは「うおおおっ!殺せ!殺せ!殺せ!」と聞こえてきた。
「…いよいよ覚悟を決めるときが来た」
「身元を判明するものは持ってきていないな」
「それならば後はこの身と術人間が消えれば証拠は全て隠滅される」
1人の代理マスターが何かの用意をし始めた所でミチトが攻勢に出た。
山の中から聞こえてくる絶叫や悲鳴、局地的にこれでもかと降り注ぐ雷。
この世の終わり、地獄がそこにあった。
もう間もなくミチトはここにやってくる。
代理マスターの1人がシヤを見て「お前達のせいで」と言ってきた。
横の少女が怯えていたのでシヤは「大丈夫、ミチトが見守ってくれている」とこっそりと言って安心させた。
「最後の食事だ」と言って出されたのはいつもの不味いパンではなかった。
不思議そうに思う中、それぞれの代理マスターが「残りが少ないから半分に分けて食べよう」と言ってパンを分けた。
パンは何故か湿っていて何か嫌な予感がする。
「食べろ」と言われた術人間達はパンをひとくち食べる。
パンは湿っていて変な味がする。
食べた途端全身を襲う虚脱感や脱力感に襲われてシヤは倒れ込む。
何かの毒だと思い吐き出したいし皆を止めたいのに身体は動かない。
そうしていると同じパンを食べた代理マスターも倒れ込んできた。
ここでシヤの意識は消えた。




