番外編TIPS:冒険者関連情報編:防獣林
都市郊外は魔物の領域である。だが、世界開拓事業を進めるバッカス王国はそこに踏み入らざるを得ず、政府は――冒険者ギルドは少しでも人間が活動しやすい環境作りも行っている。防獣林はその「地形改善」の代表例だ。
防獣林作りは植林から始まる。
植えられるのはイネ目イネ科タケ亜科の植物――竹をベースに魔術的品種改良した植物であり、竹の成長力の強さを引き継がせ植林から数日で林を生成する事が可能となっている。
成長した防獣林は他の植物の光合成を妨げて領域を保持する。これによって出来る防獣林は「高所は背の高いタケ亜科植物の枝葉に覆われ、低所は草が生い茂っていない場所」を形成していく。
草むら――草が群がって生い茂っている場所は小型の魔物にとって身を隠す絶好の場所であり、その草を排する防獣林は小型・中型の魔物が生息していても「人間側が直ぐに察知しやすい環境」となる。
また、高所に向かって茂る枝葉は飛行種の魔物の侵入を妨げ、視線を遮り、仮に入り込んできても迎撃しやすい防御陣地にする事が可能となっている。
大型の魔物はその膂力で木々をへし折って防獣林に侵入する事も可能だが、人間サイズでは通りづらい林は大型の魔物にとっては窮屈な場所になる。わざわざ通りづらい場所を通る魔物は全体を見れば少数派であり、人間を見て侵入してきたとしても林を障害物にして迎撃しやすくする事が出来る。
こういった効果が見込める事から防獣林は「大型や飛行種を避けて通行・野営しやすい場所」として都市郊外各所に作られており、魔物の生息域を大きさや生態によって区切る自然かつ人工の要害としてもバッカスに貢献している。
もちろん防御陣地としては砦や都市を作った方が堅牢である。
だが、都市郊外各所に作っていては費用的問題や人員配置の負担が大きいため、「放置しておいても必要に応じて使用可能」「低コスト」「踏み鳴らされたぐらいではまた竹が生えてくる再生能力」を見込まれた防獣林が作られているのだ。
こういった防獣林の位置は冒険者ギルドが配布している地図にも記載されており、「小型はいいけど大型の魔物は避けたい」という時は防獣林で覆われた街道を通行場所として選定したり、野営地選択にも役立っている。
また防獣林を構成している植物によっては矢の材料になり、魔力節約のために野営しながら矢を作成している射手もいる。もちろんそれ以外の物品作成の材料になるため、ギルドでは防獣林の効率的利用方法を広く宣伝している。
防獣林は都市から離れた場所ばかりにあるわけではない。
都市によっては広域に渡って防獣林が構築され、大型の魔物がフラッとやってくる可能性を低くする意図で使われている。
都市近郊で魔物を狩った方が新鮮なうちに死体を運び入れる利点はあるものの、常駐の防衛兵力を置きたくない――防衛費が高くつくのを防ぎたい――都市では防獣林が大いに活用されている。100%接近を防ぐものではないが。
「うわあああああああああああああああああああああ!?」
『あ、ごめ……m4a)e、がまんdww……!』
サーベラスはそんな都市近郊の防獣林を走っていた。
出来るだけ林が茂っていない通行用の場所を通っているものの、既に大型の魔物の域に達していたサーベラスには狭苦しい場所であった。
サーベラスの背に尻尾で縛り付けられた少年の顔や手足が葉や枝がベチベチと叩かれる事となったが、「たぶんしなない」と判断したサーベラスは突き進んだ。
都市の市壁上で警戒していた守備隊が驚き、矢を射掛けてきたもののサーベラスを止めるには十分なものではなく、子供が魔物の背にいる事もあって迎撃はサーベラスが懸念していたほど苛烈なものにはならなかった。
「待て待て待てッ! 撃つな! 撃つな! 大弩はやめっ! 子供がいっ」
「ひいいいいいいい!」
「あああああああ撃ったああああああ!?」
『いてっ』
「ひっ、弾いた……!? りゅ、竜種か!? ……こ、ここまで来たのか!?」
『3<3k、政府の人st、いませんか……』
サーベラスは少年をバッカス王国に引き渡そうとしていた。
バッカス王国に保護してもらう事で少年を助けてもらおうとしていた。騒乱者として活動していた事で裁かれるとは思っていたが、それでも、そうせざるを得なかった事情を汲んでくれるだろうと信じていた。
魔獣は無理でも、少年なら大丈夫だろうと思っていた。
ただ、そのまま市壁上に置き去りにしていては少年騒乱者が自爆を選び、死傷者が出る事を心配していた。何とか蘇生魔術に頼らずとも済むよう、預けても問題なさそうな相手を守備隊に攻撃されながら探していた。
『いたっ、痛っ……3Z、居た』
「あにゃあああああああ……!」
「ひぅぅぅ……!」
サーベラスは都市に来ていた見知った顔の少女二人を見つけ、その影に潜んでいる存在に少年騒乱者を預ける事を決めた。
「おまえ、なん……でっ……!」
『ごめんね。きみは、し30p、なって,……』
魔獣は尻尾で少年の首を締め、気絶させ、自切した尻尾で縛って少年騒乱者を置き去りにした。これによって少年は保護される事になった。
サーベラスは走り、都市から離脱していった。
「逃がすな、追えッ! ここで仕留めるぞ!」
「アニャアアアア~!」
「だ、だめですよっ、大人さんが、ちゃんと仕事してるの……追っかけて、じゃましちゃだめでしゅ……にげましょ……? 応援は、あとです」
「んににににっ! でもでも、なんか、へんにゃにおい……嗅いだことある?」
都市間転移ゲートを潜ってやってきた精鋭達から間一髪のところで逃げ延びたサーベラスは、殺されかけた恐怖に震えつつも一つ事をやり遂げた満足感でほころび、月に向かって獣の咆哮を上げていた。
『やった……そうちょ、ぼく、やったよ……!』
だが、これで終わりではない事を魔獣は自覚していた。魔物の本能に理性を蝕まれつつも、必死に抵抗して彼の考える成すべきことを成すために走り出した。
それはアルゴ隊に自身の首を差し出し、殺してもらう事――では無かった。
そうする道も彼は考えていた。だが、その考えを改めていた。
『そなことしても……そうちょ、よろこぶ、ない……!』
自棄になって死ぬ事も考えていた獣はしかし、死を想いながら人を想う事で実質的な自死の道を選ばず、別の可能性を模索する事を決めていた。
『たたかう。ぼく、それぐらいしか、w@gue』
サーベラスは自分の事を不器用な木偶の坊だと思っていた。
『ばかだから、そうちょ……いないと、だめ。……でも、そうちょ、いない』
今は一人きりになってしまっていた。
『だから……じぶんで、tyt@5.。……ばかでも、かんがえなきゃ……!』
魔獣は寂しさと無力を噛み締めつつも、自分自身の頭で考え、判断する決意を固めていた。自分の理性はそのためにあると信じて。
人語を失くしても、希望が潰えても、自分自身の努力で一度消えた希望の灯火を灯すために思考し、疾駆し、出来ることをやる事にした。
『ぼくは、たたかう。まだ、dyw@ue。できること、ある。egqe』
魔獣は――魔物は、南に向けて走り始めた。
『ぼくは、あきらめない』