番外編TIPS:冒険者関連情報編:対飛行種戦術と設備
ゴブリン種という例外はあるものの、バッカス国民にしろ西方諸国人にしろ、異世界人にしろ「空を飛ぶ魔術」の習得は難しいものである。
これは「泥臭い冒険をしてね」と願っている神が世界に干渉して習得難易度を難しくしているためで、こればかりはバッカス政府でも対応が難しくなっている。
しかし、人類の事情など鑑みない魔物達の中には飛行種のものも少なくなく、世界開拓事業を進めるバッカス王国は「飛行種対策」について考える必要があった。
都市郊外においては防獣林などに頼る事が有効な対策となった。
空飛ぶ魔物は開けた場所であれば猛威を振るうが、森の木々や岩山の地勢があるとそれらは人間側にとって都合の良い遮蔽物――盾となり、飛行種相手であれば逃げ隠れするのに便利の良いものとなった。
火炎放射器の如きブレスを吐いてくる飛行種相手には盾としては機能しづらくなるが、それでも平原で遭遇するよりはマシである。
都市においては防空網が敷設された。
これは異世界人達に「電柱の仲間だ」と言われる代物になる事が多いが、それでも都市内における森林の役割を担うものである。
防空網は「防空柱」と「防空線」で構築されており、地中深くにまで柱を埋め、なおかつ都市内の建物より高く柱を立て、防空柱同士を防空線――金属線や軟質線で結び、都市上空に「魔物の飛行を阻害する巨大な網」を張るものである。
景観の問題から飛行種があまりいない地域では常時展開している事はあまり無いが、大型飛行種の到来が確認され次第、カーテンを広げるように即時展開出来るようにしているよう設置している都市は少なくない。
景観対策として普段は地下に入れられ、非常時に地上へ出てくるものもあり、昨今は少し高価なこちらのタイプが好まれている。普段から出しておくものも住人が洗濯紐を引っ掛けて勝手に洗濯物を乾かしている光景を「味がある」と言う者もいるが、全体を見ればこちらの方が少数派となる。
あまりにも飛行種の到来が多いようであれば地下壕を設置して攻撃を気にせず円滑な都市防衛を行えるようにしたり、最初から地下都市を作る事もある。
時には市壁上や都市近郊に「大型フック」を設置している事もある。
この大型フックの使い道は飛行種に鉄線付きの矢を打ち込むなり、鉄線なり縄を直接くくりつけ、その後端を大型フックに接続して飛行種の飛行を阻害するというもの。要は犬をリードで柱に繋いでおく状態に似ているため、俗語で「犬紐」「やっこさんの首に犬紐をかけてやれ」と言われる事がある。。
犬は行動範囲を限定されるだけで済むが、飛行種相手の場合は無理をして飛んで鉄線に引っ張られバランスを崩し、地上への落下を誘発しやすくなる。
落下の衝撃で死ぬ事もあれば落下した隙に群がってきた冒険者達にタコ殴りにされる事もある。都市近郊に敷設されているものであれば事前に地中深くに堅牢なフックを敷設しておく事が出来るので大型飛行種でもこれで地上に叩き落とされる事があるほどである。
だが、超大型飛行種にはどの対策も不足となりがちだ。
ヴィントナー大陸を蹂躙したエキドナ・アーセナル相手にも、既存の防空・対空装備は事足りず――第三次迎撃戦は失敗する事になった。
失敗に至る変調に最初に気づいたのは展開している観測班だった。
「アーセナル内部からの震動を感知。……アーセナル上方、展開します」
『展開? 何を言っている、報告は正確に――』
「正確に報告しています。これ以上は詩的に言うしかありませんよ」
それは開花のようであった。
第三次迎撃線を前にしたアーセナルは――全長10000メートル超、全高4000メートル超の巨体のうち、上部、約1000メートルを分離。
そのまま残った下部を発射台とし、大気をも震わせながら南の空へと飛翔。展開したバッカスの部隊は迎撃を行おうとしたものの、それは全て転移装甲によって無効化される事となった。
「おいおいおい……! なんだ、あの魔物」
「……魔物なのか、そもそも」
「観測、追撃班は追いつけ――」
「追いつけるわけないだろ……!? あの、バケモノ、飛びながら竜種をバラまいてやがる。ちょっとした――いや、ちょっとしたどころではない質量爆撃だ」
「急ぎ予定進路の都市に転移! 先回りして観測と迎撃を継続しろッ! 第三次迎撃戦は完全に失敗した! あんなもの、落とし穴に落とすどころでは――」
「アーセナル、さらに分離します!」
宇宙までは到達せずとも、雨雲を押しのけ悠々と迎撃線を突破したアーセナル。その発射台となった残存部は発射の役目を終えると直ちに分離。
そのまま扇状に散らばり、複数にわかれた巨体からバッカス側を超える兵力を展開し、飛翔したアーセナルを――エキドナの追撃に向かおうとしていたバッカス王国側のリソースを分散させる事に成功していた。
バッカスを襲ったのは魔物達だけでは無かった。
「いくぞ、いくぞいくぞいくぞ……!」
「くたばれバッカス! 見ててねパパ……!」
少年少女騒乱者達も人魔の戦いに参入し、騒乱者が攻めてくる事は予期しつつもエキドナ・アーセナルの分離飛翔に対応し損ねたバッカス王国を乱戦へと引きずり込んでいった。
統率の取れている戦士団、有力冒険者クランは目の前の戦いに必死に対応していったが、中にはさらなる「敵」の到来に悲鳴をあげるものもいた。
「北方の沖合いからさらなる魔物の接近を確認! 数1、ですが――」
「今更、一体増えたところでどうとでも――」
「木っ端の魔物ではありません! ヴィントナーで目撃されたサーベラスです」
「海岸線の要塞に突貫してきます!」
「チッ……! 迎撃しろ。巡航島からの斉射を受ければヤツも無事ではすまん。報告されている再生能力であっても、完治前に押し切れる。海に沈めてやれ」
サーベラスは巡航島と要塞からの一斉射撃を目にしてもなお、迂回しなかった。
迎撃体制を整えているバッカス王国に――正確にはバッカス王国が晒されている戦場に行く事を目撃としているがゆえに直進した。
『d1tm。きをつけなきゃ』
射撃は回避する。受けても問題ないものは受け、受けきれないものは即死を避けて自身の再生能力でゴリ押しすると決めていた。
だが、それだけでは足りない事を彼は理解していた。だからこそ魔物だからこそ使えるカードを用意し、それを突貫の援護に用いる事にした。
突入策はスライムであった。




