番外編TIPS:騒乱者関連情報編:神の加護
神が騒乱者に与えている魔物避けの加護の通称。都市郊外での活動する騒乱者にとって、魔物は冒険者以上の驚異になりかねない暴力であり、対策が必要となる。
彼らは神より魔物避けの加護を賜り、それによって郊外活動の安全性を確保している。だが100%魔物の驚異を排除出来る加護を与えられるのは歴史上稀な事であり、多くの騒乱者が「多少襲われ難くなる」程度の権限しか与えられていない。油断した騒乱者が魔物に食われるのは神の娯楽の一つである。
上手く使えばバッカスへの貢献――世界開拓事業への貢献が可能だが、神は加護の乱用を好まず、読心魔術も交えた判断で加護はあっさり取り上げられるため、あくまで騒乱者業界でしか役立てる事が出来ていない。
エキドナ事変に関わった騒乱者――それも南進するアーセナルの防衛に関わった少年少女騒乱者の多くはバッカス王国に対し牙を剥き、死んでいった。
だがその死因の多くは加護で避けきれなかった魔物の暴力によるものだった。
サーベラスが助けた少年騒乱者の妹も、魔物に殺されていた。
「おまえ、なんでっ……!」
『だめ。その子、しんでる。もう』
妹を――少女騒乱者を殺したのはサーベラスでは無かった。
少女の死因は激しい戦闘の最中、竜種の身体に押しつぶされ、内臓を風船のように押し潰された事にあった。目玉がこぼれるほどだった。
サーベラスが尾刃で両断したのは少女の身体を借りたアンデッド。少年騒乱者が再会した時にはもう全てが手遅れとなっており、何とか理性を保っているサーベラスはあくまで少年に危害が及ぶ前に割って入っただけだった。
だが、それでも、少年騒乱者は現実を容易には受け入れられなかった。
「おまえ……おまええええええええ!! なんで、何でだよおおおおぉぉぉッ!」
『…………』
サーベラスは少年がまだ蠢いている少女に縋りつこうとするのは止めつつも、自分に対して殴りかかってくる少年の事は止めなかった。
少年は怒り叫び、木の棒を振るい、魔獣の身体を打ちのめそうとした。サーベラスが甘んじてそれを受け入れても硬質な皮と体毛は少年の攻撃を容易く弾いた。
「なんで、なんでっ、なんでなんでなんでっ……!」
『……ごめんね』
「なんでっ、おれたちが、こんな目に……! しあわせに……ただ、しあわせになりたかったのに……しあわせにしてやりたかった、だけなのに……!」
顔を涙と鼻水で汚した少年は、折れた木の棒をサーベラスの目に突き入れた。
突き入れようとした。だがそれは目に触れる事なく、嗚咽を漏らしながら跪いた少年の手からこぼれていった。彼は現実に打ちのめされ、うずくまった。
『きみは、わるくない……』
サーベラスは少年に寄り添おうとして押しのけられ、黙って見守った。
言葉を交わす事は出来ずとも、言葉に耳を傾ける事が出来たからこそ少年の境遇を不憫に思い、選択肢なんてろくに無かったであろう事を哀れんでいた。
少年は悪事を働いた。だが一人の子供に抗える状況では無かっただろうと思っていた。少なくとも、環境が悪かったのだろうと断じた。
『ぼくは……きみになってた……かも』
サーベラスは自分には総長達がいたと幸福であった過去を思い返していた。
彼らは――アルゴ隊は完全無欠の善良な人間では無かったが、それでもサーベラスの幸福を祈ってくれていた事を改めて噛み締めていた。
あの出会いが無ければ、「ぼく」はいなかったと断じた。
『……ちゃんと、して、あげなきゃ』
もはや取り返しがつかない犠牲者となった少年の妹の死体を見つめたサーベラスは「せめて人間らしく終わらせてあげたい」と思い、埋葬を始めた。
やがてその傍らに少年騒乱者もやってきたが――彼はサーベラスを止めず――俯きながら魔獣の手伝いを始めた。数少ない遺品を胸に抱きながら。
「あり、がと……」
『…………』
「ごめん、な」
埋葬の後。少年は魔術による自爆を選んだ。
サーベラスはそれを解呪した。
「やめろ……やめろぉ……! もういい、もう、妹のところに……!」
『だめ。しんだら、おわり……ぜんぶ……』
「はなせよ! あっち、行ってくれ……! おれたちの居場所なんてないんだ! この世界にっ! おれたちが、生きていていい場所なんてないんだッ!!」
『あるよ。きみはまだ、とりかえしつく。いきてていい。いきてなきゃ……だめ。きみは、ぼくになっちゃ……ダメなんだ』
「なに言ってんのか、わかんねぇよぉ……!」
『ごめんね……』
サーベラスは自分が少年の意に反している事をしているのを自覚しながら、それでも少年が自殺する事を止めた。そのために行動する事にした。
『おはなし、したい。つたえたいbs、いぱい、3.』
意識まで完全な魔物になりつつあるサーベラスに人の声帯は無かった。
だが、それでも人の心はあった。だからこそ――喋れないなりに――行動によって少年騒乱者が「ただの少年」でいられるよう、戦い、抗う決意をしていた。
『いこう。きっとキミにも、皆にも、ぼくにとっての総長がいるから』




