番外編TIPS:バッカスの歴史編:天魔戦線
開拓停滞期を抜けたバッカス王国が経験した一連の戦いの呼称。
アスティ、フランチャコルタなどの自治都市及び集合野営地シュセイがある大陸・ヴィントナーを主戦場とした戦闘であった。
その始まりとなったのはシュセイの遥か東、ピジャージュ大平原を渡ろうとしていた開拓団が全滅した事。開拓団は自分達が「なぜ死んだのか」を理解出来ず、首都にて遠隔蘇生される事となった。
数少ない証言から「魔物の攻撃により一撃で討ち滅ぼされた」と推測した冒険者ギルドは調査隊を派遣。開拓団が全滅したと思しき場所は広範囲に渡って焦土と化しており、詳しく調査を行おうとした調査隊は索敵魔術を阻む霧に飲まれ、半数以上を殺されながら命からがら撤退。
その10日後、ヴィントナーにある都市や野営地が100を超える天魔を中核とした魔物軍勢に襲われ始めた事からこの戦いが天魔戦線と呼ばれるようになった。
第一次攻勢そのものは何とか凌いだものの、他の魔物より狡猾に立ち回る天魔はほぼ無傷のまま撤退し、第二から第十五次攻勢に現れ、バッカス王国側に少なくない被害を及ぼす事となる。
特にバッカスが苦しめられたのは「シャーマート」という天魔であった。
この天魔こそがピジャージュ大平原で開拓団を一撃で滅ぼした天魔であり、それ以降も多数の冒険者と戦士団を屠ってみせている。
その攻撃方法は体内で生成した飛翔体を放つというもの。最大射程は冒険者ギルドの試算で3000~5000キロ。平均誤差半径は100メートルほどで、着弾すると半径1キロは一瞬で消し飛び、その周辺にも甚大な被害が及ぶ。
バッカスは攻撃の正体は理解出来ても、シャーマート本体を見つける事が出来ず、反攻のための大兵団派遣を長らくシャーマートに封殺される事となった。
イアソンもアルゴ隊を率い、天魔戦線へと参陣していた身であり、巨人の少年に請われた「とある冒険者の英雄譚」語りの中で当時の様子を語った。
「あの天魔は無茶苦茶厄介だったなー。大部隊動かすと直ぐ捕捉されて撃ってくるし、かといって少数精鋭の部隊を動かすと他の天魔や魔物に対応するのが難しくて、なかなか見つけられなかったんだ」
不幸中の幸いはシャーマートが敵を討つためなら味方ごと焼き払う事すら厭わない射撃を敢行してきた事で、天魔戦線に参加した天魔の半数以上がシャーマートの射撃で消滅した事だろう。
バッカス王国は都市での防衛戦を長く続けつつ、天魔達の数を減らすために動き、シャーマートの射撃も誘発して少しずつ数を減らす事に成功。
絶えず移動しているシャーマートの弾道を計算し、移動速度や射撃場所のデータを徐々に絞り込んでいき、精鋭部隊によるシャーマート討伐に動く事となった。
「けど、これは失敗したんだ。……一応な」
イアソンはそこで一度言葉を区切り、珈琲をすすった後、三角座りしてじっと耳を傾けてくる少年に「バッカス王国の失敗」と「それを挽回した者の話」を再開していった。
当時の事を――とある冒険者の活躍を特等席で目撃できた事を誇りに思い、ほころびながらまだ若い少年に英雄譚を語り始めた。