番外編TIPS:魔物編:シャーマート
ヴィントナーにおける天魔戦線において、バッカス王国を最も苦しめた天魔。
その最大の武器は着弾地点の半径1キロを消し飛ばす超長距離射撃。その威力はカンピドリオ士族の人狼ですら再生の暇すら与えず即死させるほどのもの。並大抵の防護魔術では防ぐ事が出来ず、射撃を感知して着弾予想地点から走って逃げる事も非常に困難なほど強力な魔物であった。
これに対しバッカス王国は遠隔蘇生前提の特攻部隊を編成し、まずはシャーマート以外の天魔を始末する事から開始。
保険利用者を減らすべく天魔戦線に関係の無い地域の遠征への自粛令を出してもなお、保険代が平時の3倍に高騰させざるを得ないほどの犠牲が出たが、何とかシャーマート以外の厄介な天魔の排除に成功。
そこで士族戦士団からよりすぐりの精鋭部隊を送り出し、魔物の群れを強行突破しながらシャーマート滞在予測地点に向けて派遣するという作戦を決行した。
しかし、これはシャーマートの姿を肉眼で捉える事すら出来ず失敗した。
シャーマート最大の武器は超長距離射撃だが、それを支える異能――天魔の索敵能力が決死隊の追跡を阻んだためである。
天魔は射撃を行う本体だけではなく、広範囲に索敵網を構築するヤモリ程度の大きさの子機を持っており、そこからの情報で決死隊の位置を把握して逃走。
決死隊は精鋭とはいえ、全ての子機からの索敵から逃れる事が出来ず、さらには子機に着弾誘導された射撃とその他の魔物の群れに追撃を阻まれる事となった。
櫛の歯がかけるように死亡脱落者を出していった決死隊は二ヶ月に渡る追撃の末、「これ以上の追撃は出来ない」と戦力の6割を損耗させて撤退。
索敵網からそれを察知したシャーマートは歓喜の咆哮をあげ、都市に向けて逃げる決死隊及び救援のために出てきた部隊に向けて1000キロ先から砲撃。その半数を消し飛ばし、勝利を確信して「a%Zh/esq@9!」と叫びながら次弾を砲撃――しようとしたところで内側から爆発四散する事となった。
「いや、あれはホント見事に吹っ飛んでた! なんせぼくも巻き込まれて死んだぐらい、周囲が跡形もなく吹き飛んだからな!」
当時を知るイアソンはケラケラと笑いつつ巨人の少年にそう、語ってみせた。
少年はシャーマートが「どうやって倒されたか?」がわからず、問いかけたがイアソンは「当ててみろ」と言われ、少年は首をひねる事になった。
「そうちょたちが、なぐて、たおした……?」
「違う」
「勝手に、死んだ……?」
「違う。答えは、射殺した」
当時、アルゴ隊は発足して間もない冒険者クランであった。
表向きは大した実績もないため、対シャーマート決死隊のメンバーとして呼ばれる事はなかった――が、政務官長が密かに用意した次善の策のため、イアソンを通じ、アルゴ隊に極秘依頼が回される事となった。
その依頼を受けたイアソンは大陸にて隠密行動を開始。シャーマートの子機の目を盗み、夜間低空飛行あるいは泥に塗れながらの匍匐前進で移動。シャーマートを目視確認出来る位置を気づかれず、キープし続けた。
決死隊の作戦が失敗し、撤退を開始した事でシャーマートが追撃開始。イアソンも単独かつ隠密でシャーマートの傍に張り付き続けた。
二ヶ月に渡って自分を苦しめた決死隊が退いた事で勝利を確信してしまった天魔は明らかに慢心していた。具体的には「射撃後の移動」を怠った。
それを見込み、密命を帯びていたアルゴ隊は撤退中の決死隊救援に向かった部隊に紛れ込み、追撃の第一射が放たれると直ちに行動を開始。
一射目を全力で耐え、当時アルゴ隊に所属していた魔術師がシャーマートがこれまで放った射撃の情報と現場得た情報、そしてイアソンの位置情報を元に急ぎ弾道を解析し、アルゴ隊の射手に敵の位置を伝達。
射手はそれを元に、逆探狙撃を敢行。
天魔の射撃をピタリとなぞる一矢は、ただ静かに空を征き、千キロ先で勝利に酔う天魔の頭上に当たり前のように舞い降り、放たれようとしていた次弾を貫通。
悪魔は開拓団全滅とは逆の立場に立たされ、滅びる事となった。
「ぼくも現地で少しだけ弾道修正する予定だったんだけど……あんまりにも綺麗な一矢に見惚れちゃってさ……。鋭く、静かな一撃で……修正する必要が無かった」
「すごぃ」
「だろっ!? アイツはな……すごい冒険者だったんだ……!」
イアソンはとても誇らしげに、嬉しそうに大親友の戦果を誇った。
実際それは誇るに相応しいもので、シャーマートが滅ぼされた事でバッカス王国の逆襲が本格的に始まり、天魔戦線に参加した天魔のうち、その後も生き残ったのは「ペイルライダー」「プロメテウス」「アレース」の三体のみであった。
天魔戦線の終結はそこから半年ほどかかったものの、そこに至るまで10年の月日が流れていた事を考えると、逆襲の流れを引き込んだ一矢はアルゴ隊の大英雄・ヘラクレスの功績を世に知らしめる偉大な一矢となった。
半ば囮に使われた決死隊の面々は良い顔をしなかったが、それでも「じゃあ代わりに同じ事が出来ていたか」と言われると黙し、舌を巻かざるを得なかった。
イアソンは「天魔戦線終結の一矢」以外の英雄譚も、楽しげに語り続けた。少年はイアソンが「親友」について語る言葉に頷き、必死に記憶していった。
「アイツはな? 本当にすごい冒険者だったんだ! アイツが出来る、やるって言った事は、ただ一つを除いて……全部やってのけてみせたんだよ」
「ただ、ひとつ……?」
「……寿命が近づいて身体弱って、冒険に行けなくなった時に……ぼくと約束したんだ。また、ぼくといっしょに冒険に行くって約束して……行かなかったんだ」
行かなかったのではなく、行けなかったのだと理解しつつもイアソンは口をへの字に曲げ、眉間にシワ寄せ、震え、怒らずにはいられなかった。
「アイツは、一個だけ、約束破った。だから……ぼくも、一個だけ遺言破る。……弔魂祭の手紙を送らないのは、アイツへの、せ、正答な抗議なんだっ」
真実を知った少年は、「よくない」と思った。だが、イアソンをたしなめ、改めさせる言葉を持たなかった。少年は口が達者では無かった。
その代わり……ではないが、少年は一つの手紙を書く事にした。
まだ覚えようとしている途中で、つたない言葉ではあったが、イアソンに嘘をついてまで聞いた英雄譚を思い出しながら一つの手紙を書いていた。
それは遠征の最中――弔魂祭の日に書き上がる事となった。
致命的な勘違いをしていたが、それでも、手紙は書き上げてみせた。




