妹キャラ
〈まず出ないと……駄目なんだよ〉
携帯端末がスネた感じでなんか言ってきた。神着メロはすでに鳴り止んでいる。
ワルディーがその声を聞くなりニコリとハシャぎだし、手ぶりで「出て! 電話出て!」みたいな感じで俺を誘う。
やれやれと、現実に引き戻された俺は一つ小さな溜め息を落とし、その場で顔だけを携帯端末に向け、言った。
「どなたですか?」
〈──いやいや、出なさいよ。電話。折角鳴らしてんだから〉
「会話できてんじゃん」
〈何言ってんの! こういうのはまず……出て! そしてオマエは固唾を飲みながら『誰だ』と恐怖に震え……つぶやく! 聞こえてきたのはこの世のモノとは思えない……恐ろしい声なんだよ!〉
なんですかこの演出家は。めんどくせ。俺はくしゃりと顔をしかめ、なんとなく首をモミモミしながら携帯端末を置いた机に歩み寄る。
「ハイもしもし──あゴメン、だ、誰だ?」
通話ボタンを押して、携帯を耳に当てた俺は一応ヤツのシナリオに従った。
〈あ、ワタシワタシ、ワタシだけど。──あのさ、特になんのトラブルも起きてないんだけど、ちょっと200万振り込んでみてくれる? ……きっと、トラブルはそこから始まると思うんだよ〉
俺は特に返答もせず、ピッと終了ボタンを押しておく。
「アレ? どうしたのレスか?」
「ああ、チャレンジ精神溢れる詐欺電話だった。ある意味、この世のモノとは思えない」
小首を傾げて訊いてくるワルディーに、俺は椅子に腰掛けながら優しく答えた。
〈……もう一回、チャンスをくれないか〉
机の上に放っておいた携帯がまた勝手にしゃべりだした。
「──いいだろう。超越者たるこの私に二度も挑む貴様の強き魂……嫌いではない。……だが、解っているのだろうな? この私に、三度目はないぞ?」
〈……はい。解っています〉
覚悟に澄む返答。その意気やよし。
机に妖しく頬杖をつく俺は、座り組んでいた足をゆっくり、逆の足で組み直した。
対面に座るワルディーが味付け海苔をパリパリ食いながら緊張の面持ちで状況を見守る中……携帯が、先程と同じ重低音で着信を伝え始めた。
ならば見せてみるがいい。この冷たい宇宙に生まれ落ちた……貴様の意味とやらを!
携帯を手に取り、通話ボタンを押すと耳に当て、俺は恐怖に震える感じの声を振り絞った。
「ハイもしも──あゴメン、だ、誰だ?」
〈は、はあ?! お、お兄ちゃんの事を好きになるわけないじゃん! 私たち、血が繋がってるんだよ?! わ、私、お兄ちゃんのことなんか、お兄ちゃんのことなんか──〉
俺はピッと終了ボタンを押しておく。
「アレ? 何で切っちゃうレスか?」
「……ナゼ、と訊かれれば。……うん、それはオマエのお姉さんが色んな意味で強大だからさ」
「きょーだい? リュシロ……エヌ姉のおにいたん? おとうと?」
「ああ……そのキョウダイでなく……別に俺、上手い事言ったつもりでもなく……」
小首を傾げるワルディーをよそに、携帯をそっと机に置いた俺はとりあえず味付け海苔を一枚取る。
パリパリとそれを食いながら星空を見上げ、『世界賊』からの再度の着信をしばらく、穏やかに、無視してみた。
あの神曲は──また聴いてやってもいい。




