神曲2
「僕達の最後の敵は、こんなにも大きいものだったんだ」
俺は闇に浮かぶ旧校舎をラスボスに見立て、巨大な影を見上げながらコブシを握り、構えた。
ワルディーも何となく察したのか、聖なるタイマツを焚き火に放り込むと俺の隣に駆け寄ってきた。そうして腰のナイフを抜いて、旧校舎に向かってカッコよく構えた。
──そう。俺達には伝説の武器など見つからなかった。
伝承は、それを辿ろうとする者達、すなわち勇者達をおびきよせる、古からの魔軍が作り上げた罠だったのだ。
……俺達は伝承に従った道で、最後の協力者(入れ替わり枠)を失った。
もうこの傷だらけのコブシと、彼女の母が託した──彼女が握る、形見のナイフ。俺達には、それしかなかった。
「──けれど! それがどうした!!」
俺の熱い叫びと共に、携帯からマジでいい感じのサビがきた。超アチい。解ってるよこの携帯……。
「ワルディー! 今こそ君の左手を!」
俺は右手を、ヒロインである隣のワルディーに差し出す。
……ちなみにゲームではヒロインの名前をイジれたから、アイツの名前を入れていた事は誰にも言えない秘密だ。
「うん!」とワルディーが元気に頷き、左手をネコみたいに俺の右手に乗せてきた。オリジナルと若干イメージが異なるが、そこまでをワルディーに求めるのも酷だろう。
こんな感じでノってくれるワルディーは実際、カワイイと思う。
俺は神曲にノせられて、チョットだけ右手を発光させてみた。自分の粒子を短時間イジくる位なら、まあ大して問題はない。
「わあ~」
ホンワカした光に、ワルディーが素な感じで微笑んだ。
──ふん。こんなフウにも出来るけど?
俺は調子にのって七色の光を生み出す。
淡色の光が虹となり、それこそが人類の切り札となりえるのだ。
「ん、パティー! これこしょパティーれすねぇ~!」
ワルディーのテンションがちょっと違うが、俺は脳内で補正しておいた。
──ヒロインは最後の切り札を生み出しながら、代償としてその生命力を急速に削られているのだ!
「リュシロ! 花火みたくできるれす?」
──は、早く! 私に構わず最後の詠唱を!
そう言ってヒロインは涙を流したのだ!
……そして少年勇者は、繋いだその手を離した。
「あ~。リュシロなんでやめるアル~? もっと! もっとハンパなく!」
──なっ!? なぜやめるの?! この魔法しか、私達にはもう……!
…………やっぱり、違うよ。
君を犠牲にする力なんて、いらない。
だから……。
曲はクライマックス。俺は脳内再生のセリフに併せ……コブシを握った。
──勇者は傷だらけのコブシを熱く握ったのだ!
──もう逃げちゃおうよ。
あ、結婚してくんない? ま、まずは子作りから始めよう。
……しまった……。あのゲーム、最後の最後でクソシナリオだったのを思い出した。
──落胆で地に膝を落とす俺。
200時間という無駄に長い平均プレイタイムの結末がこれだよ。「子作りから始めよう」のセリフの後、さりげなくスタート画面に戻るからビックリ。
このメーカーの数少ないコアユーザーからすれば「こういうのがタマらない」らしい。どんだけ境地に達してんだよ。
最初のキャラ設定で、両親の職業を1000種類近い選択肢から『最近、スロットの収支が安定しない魔剣士』と『自販機の下に落ちている小銭を探す士』を選ばないと真ルートへ進めない謎仕様だったのだ。──誰が選ぶんだよそれ。普通に『戦士』と『盗賊』選んじゃったよ俺。
しかもコレについてメーカーからのリークなど一切無し。変態的なコアユーザーが発売から三年後にたまたま発見したとネットのアングラサイトで話題になっていた。「こういうのがタマらない」らしい。
俺が脱力の中、色々と過去を思い返していると──
〈──出ろよ!!〉
と、携帯がブチギレ気味に叫んだ。




