神曲
懐にしまっている俺の携帯端末が謎の着信音を鳴らし続ける。
休み時間に端末の設定を弄っていた時には、こんな着メロは入ってなかった。
何かドラムの重低音が単調なリズムを刻み、まるで恐ろしいバケモノが出現する前触れ──そんな緊迫感を演出しているかの様だった。
「……リュシロ……お電話……れすか?」
「……いや、この音、身に覚えがない。こんな着信音、知らない……」
「……ん、出てみてはいかがでしゅか……?」
「──うかつに動くなワルディー」
こちらに近づこうとするワルディーを、俺は低い声だけで制止する。
──夜風が、ロウソクの炎を不気味に揺らした。
先端に火が灯ったままのたきぎを胸に抱く様に、何かの封印を解いてしまった少女がとうとう恐怖に顔を歪ませた。
「ん、ん、リュシロ! なんかこわい!」
「だから言っただろ! 何かを呼び出してしまったのだ!」
響き続ける謎の曲。状況に思わず固まってしまったが、とりあえず確認しなくては。
俺はゆっくりと携帯端末を懐から抜き取る。
そして固唾をのみながらディスプレイを見ると────
だめだ! バグっている! 発信者の名も番号も表示していない! 画面に文字が意味不明に羅列し、踊り狂っている!
──直後、流れる曲調が一気に変化したのだ!
「──こ、これは!」
俺の痛い部分をくすぐる様な……いい曲だった。
例えるならゲームのラスボス戦。
昔やっていた、マニアックなRPGの超神曲にも通ずるものがある。──そういうB級っぽいのが好きだったんですよ俺。
ピアノの悲しげな主旋律、しかしそれを熱くコーティングするギターサウンド。
俺はその熱血サウンドを響かせるナイスな携帯端末をそっと机の上に置くと、ゆっくり、立ち上がった。
俺の乱雑な黒髪が、風に揺れる。
「──遂に、ここまできたんだ」
俺はそのB級RPGで、ラスボス戦に挑む勇者のセリフをパクった。
「……リュシロ……」
ワルディーが聖なるタイマツを手に、切ない顔でそれっぽくノっかってきた。




