少年カラス
「何ぃ?! この美しい世界を救って欲しいだと?! ──チッ。確かに俺ならば可能だ」
チャキーン! と俺は口元に片手を添え、美しい立ち姿で妖しく目を細めた。
俺のでかい声にビビった女王が、何やらドキドキしながら椅子に座っている。
「い、いや……そこまで言ってないだろ。ただ、今後の為にこの学院の戦力を充実させたい、とまでしか言ってないが」
……外からカラスの間抜けな鳴き声がうるさいぜ。
黙るがいいカラス。ここでカーカーとか、狙ってるのか? 昔のコメディか?
理事長がようやく切り出してきた話は、俺の痛い感性を存分にくすぐっていたのだ。
──世界は闇に閉ざされ、彼方より舞い降りた魔王の軍勢によって、地球人類は滅亡の危機を迎えていた。
女王配下の勇者達は立ち向かうも、魔王の圧倒的戦力に蹂躙されてゆく。
焼け落ちる城壁。切り裂かれる花々。
──なぜだ。勇者なら魔王に打ち勝てるのではなかったのか。
一人の乙女勇者が傷だらけの身で夜空に問う。そして、涙が落ちた。
星の光は応えない。
そう。そのトゥルー・ティアにただ静かに応え、降臨するは空の闇。
宇宙の闇を纏う少年は乙女を抱き寄せ、今こそ黒のナイフが魔王を断罪するのだ。
……だと?
──チッ。
「ホント気持ち悪い。とりあえず停学な?」
妖しく黒髪をかき上げる俺の心を読んでいたタイガーは衝撃で固まった。
「……まあ、早い話、誰か連れて来い龍士郎。それがオマエに頼みたい仕事だ。──こう、イキのいいやつだぞ? ……な?」
変わらず闇の貴族立ちで浸っている俺に、ヒキ気味でタイガーは語りかける。
──忌まわしき神の力にて、世界に分かたれた闇の騎士達。
闇が集いしとき、第四の扉は祝福の歌によって開かれる。
そう、封じられた騎士達の記憶を甦らせるのは、禁じられたロスト・ワード。
その術式は天地開闢以来、我が邪眼の裏にのみ刻まれたのだ。
……だと?
──やるしか……ないのか……?
「行ってまいりま、し……た……」
シズカがビニール袋を手に提げ、戻ってきた。
ビジュアル系も真っ青の耽美な貴公子立ちで、髪をかき上げたまま浸る俺。
青い顔で俺を見ながら放心するタイガー。
その状況を目の当たりに、無言で立ち尽くすシズカ。
──フッ。カーカーと。黙っていろカラス。
夕焼けの色が、変な三人と理事長室を静寂に染めていた。




