ずっと、黒は
「あ~っ!! ごめんなさア~っ!!」
俺は笑いの治まった虎神に、神々しい尻尾でゆっくりと吊るし上げられた。気持ち悪い謝罪の声は当然、彼女の心に届かない。
長い尻尾は俺を器用に羽交い絞めで固め、そのまま上に持ち上げる。少し余った尻尾の先は俺のほっぺをまたペシペシと往復ビンタだ。
──なんて肌触りなんだ……。
尻尾が発する青白い炎は特に不快感はなく、ソフトで……意外にしつこくない!
ソフトで……辺りでまた彼女は俺から少し顔を背けたが、すぐにキリっと持ち直していた。
……何これ。
真っ暗な場所で、ほっぺをペシペシやられ続けている。
俺を無表情で見上げる妖しい女神。まだ気が済みませんか。
別に……この空間に違和感も何も無かった。
黒一色。
常人ならばこんな所に放り込まれたら気が狂うだろう。
まあでも、俺はずっとこんな感じの場所で存在してきた。
星々は遠くで光るけど、俺には届いていなかった。
ずっと、黒。永遠に黒。
だからこそ大いなる白に帰りたがっていたのかもしれない。
ぼんやり考えてるうちに俺をペシペシするのも止まっていたが……なんか……どうでもよかった。
こんな世界で────。
黒の中で消えない様に。
自らの色を、その熱で焼き付ける様に。
みんな、色々、生きているんだな。
虎神も、シズカも、お腹をすかせた姉妹も、星達も。
俺のフィルターは、いつしかそれを否定しうるのだろうか。
俺を羽交い絞めにする尻尾がゆっくり動いた。
そのまま、虎神の元に引き寄せられる。
俺と彼女の顔がだいぶ近づいた。
うん、抱き寄せられる距離だ。
……なんてな。こんな事考えてるとまたペシペシされる。羽交い絞めのまんまだし無理ですよ。ご安心を。
────と思ったら、虎神が俺をそっと抱き寄せてきた。
なんだなんだ。……まあ、あったかい。
あ、あら? ちょ、そんなほっぺにほっぺを摺り寄せてこられても、ちょっと。
──えええ?! ちょっと奥さんほっぺをペロペロ舐めちゃダメ! あらイヤだよこの人! いや人じゃねえけど。
なんだか猫科の母親が子供をペロペロと可愛がっているみたいだった。
凶悪な彼女の爪が俺の頭をまさぐるが、かりかりと優しかった。そしてほっぺをすりすり、ペロペロと、なんだか甘い香り。
うん。猫科ですこれは。
羽交い絞めのまま、俺は無抵抗でゲンナリと、されるがままだった。
「──寒かったろう」
青白の拘束を解き、俺の頭を胸元に抱き寄せ、優しく撫でながら彼女は小さくそう言った。
…………やめろ。そんなの、いらない。




