超越者
「娘。家庭科室の冷蔵庫に『ゴリゴリくんコーラ味』を何本か隠してるから人数分持ってくるがいい」
タイガー理事長がシズカに妖しく目を細めて命令した。
「わ~い」
と、娘は嬉しそうに小走りで理事長室をあとにする。置いてかないでください。
「……で、どうだ? ここは。うまくやっていけそうか?」
相変わらず立派な椅子にふんぞり返りながら、この御方は一々悪そうなオーラを出す。
「やれるだけ、やってみます。他に行くアテもないですし」
俺も相変わらずポケ~っと突っ立ったまま、答えといた。
「ごはんいっぱい食べて、お友達といっぱいお話して、あったかい布団で眠って。そんな事だけで、今思えば幸せだった──。そんなところではないか?」
座ったままの椅子をゆっくり後ろに回転させ、理事長は窓の外に目を向けた。
「前の学校ではいっぱいと言えるほどの友達もご飯もなく、薄っぺらい寝袋で寝てましたが、まあ、それでも失ってみると、そうですね。そんな事でも、きっと幸せだったんですね」
大して感情も乗らない言葉で、俺も少し窓の外を見る。
そろそろ日も落ち始める空の頃。
……この色、アイツが好きだった。
理事長が、またゆっくりと俺に向き直った。
無表情の目の色が、おかしい。
「もっと以前の事を……言っているが」
冷たかった。……声も、その身から発する何かさえも。
「……一応、訊いておこうか」
弱きモノならば、それだけで殺されそうな微笑が俺に向けられた。
「何を望む……? 新たなる『世界賊』。こんな世界でも、私には大事な場所でな」
…………色々、な。ほんと、賑やかだ。
まあ、好きに生きればいい。
「……俺は『世界賊』ではありません。──ただの終わった少年です」
もう、特に言う事もない。かすれる様な声でただ、俺はぼんやりと。
そして、大いなる女王を中心に世界が徐々に黒へと染まり、その眼光だけが唯一の光となった。
「ならば否定を解いてみろ。生意気なボウヤを知り尽くしてくれる」
そこにはもう、人などいなかった。




