女王2
──問題? この景品が?
俺はどうせまたくだらない話になる事を予想していただけに、その空気の変化に小首を傾げる。
まったく見当がつかないまま、俺は次の言葉を待つ。
「今や大人気のお菓子だが、この当たりクジはそうお目にかかれるシロモノではないらしい。今まで百個近く購入してきて一度も銀の当たりすら見た事が無い子供も珍しくないという」
無表情の理事長は菓子箱に手を添え、トントン、とソレを指先で叩く。
公開などされないだろうが、なかなか厳しい確率らしいな。だが戦略としては正しいだろう。単純に、出回らないモノを欲しがるのは心理として当然だ。
「沙理緒も会長もすごく欲しがっていました。──お母様、これ、どうなさったのです?」
シズカがほお~といった具合で物珍しげに景品に顔を近づけ見ていると、理事長は小さく頷き、また目を細めた。
「──なぜ、そんな入手困難なモノがここに、この学院に易々と存在するのか。そう、ここで問題が出てくる」
……言葉から察するに、目の前の景品は単にどこかから借りてきたとか、そんな単純な事ではないみたいだ。
「買占めなどの行為も多発している。子供達の間ではそれほどまでにステータスとなりうるモノらしいのだ。そしてネットではすでに相当なプレミアもついているらしい」
……ふむ。
なんとなく、見えてきた。確率モノに、厄介事は付き物だ。
買占めから窃盗、偽情報、横流し、偽造なんて事もありえるか?
──ん? 横流し……? 企業と、何かが繋がり……。
先ほどのライフが言っていた言葉が、脳裏によぎっていた。
──それは、脆弱性を容赦なく突いてくる。
……ガキどもの、脆弱性……。
しかし俺としての問題はまず、なぜ、俺にそれを話すのか、だ。
シズカと少し合わせた顔をまた理事長に戻し、俺は先を促した。
「……まだ公に出来ない話だ。情報の取り扱いには細心の注意を払って欲しい」
口の前で手を組ませ、冷たい瞳が俺を見上げた。
俺とシズカは察し、襟のインカムを確認すると理事長に小さく頷いた。
「教え子達にこんな事を強いるのも気が引けるが、この後、誓約書も提出してもらう。今後、学院からの監視対象となる可能性も含めて、少し覚悟をして欲しい。……すまないな」
マジか。秘匿レベルが相当高い。
しかしそれを転入間もない俺に背負わせるというのは、どうなんだ?
俺がやや疑問に眉をしかめると同時に、俺をおもんばかってか、シズカがすかさず理事長の強行を止めに入ってきた。
「待ってくださいお母様。何かは知りませんが、カタリさんはまだこの学院に馴れて──」
「私は金の坊主を一発で当ててしまったんだ」
低い小声で言ってくる理事長に、やがて、俺とシズカは無言でうつむいた。
だめだ、シズカが口を押さえてぷるぷると震えだした。堪えろ。ヤツが調子づくだけだ。
「すぐ応募した」
理事長はねじ伏せてくる様にささやいてくる。
俺の限界も近かった。俺もシズカも顔を逸らして必死に笑いを堪えた。
そしてゆっくり缶を手に取り眺めると、変な女王は妖しく細めた目で俺を見た。
「──黙っていて欲しい」
「墓まで持ってくよ!」
アンタ黙ってれば解決だよ! といった感じに笑いを押し殺しながら、俺はぴしゃりと言い放った。




