闇の中で
──前回のダイジェスト
「お、『おやつナデシコ』」
終わりだよ──人類。
「ポッキーでも与えてみるか……」
「おやつと酢メシでダイジョーブれす」
「一体この学院に、何があったというのですか先輩」
「何で令嬢っぽいのよこの子は」
意味わかんねえよ。
「君は空院女学院の隠された闇、そしてその罪深さを知らない」
ナツミのその言葉には冷気が宿っていた。
罪を背負って生きる者の瞳。その光が呪いとなって、俺の自由を奪っていくかの様だった。
「だから、君にも知っておいてもらおう。そして知る事で、君はもう、戻れないがな」
──これは絶対に聞いてはいけない! 引き返すんだ!
俺の直感が叫んだが、もう、遅かった。
「……以前、教室におやつの香りが充満しすぎて警報器が作動してしまった事があるのだ」
「バカじゃねーのこの学校!! おやつ警報でちゃったの?! 一生隠し通すといいよ!!」
眼鏡を光らせた会長の暴露に俺は衝撃で固まった。
「消防車来ちゃいました。十台も」
「もう警報器もバカなんじゃねーの?! 罪だよ罪!! 『おやつの香りで消防車出動罪』で全員怒られればいいよ!!」
恥ずかしげに言うシズカを責めると、ライフはサラリとしたもんだった。
「おやつ部が主犯よ」
「あいつかー!!」
イカの香りを俺に託した嫌な黒猫の顔が脳裏をよぎり、俺は頭を抱えて仰け反った。
「ヤツコを知ってるのかセクハラ野郎。だが元凶は理事長だった。おやつ部に入り浸っていた彼女が貪る大量のウィスキーボンボンが、静かなる警報器を遂に目覚めさせたのだ」
「遂にガス発生させてんじゃねーよ理事長!! どんだけ量食ってたんだよ!! 警報器に落ち度はまったく無かったよ!! 素晴らしい性能だよ!!」
理事長への不信感は更に増し、対比で警報器がとてもいいヤツに思えてしまった。もう警報器が理事長でいいよ。
「アルコールにも反応しちゃうんだよなぁ警報器って。もう学校総出で揉み消しに走ったぞ。ああいう時に女子校が放つ団結力の凄さは、カタリにも是非見せてやりたい」
──ちっ。まあ発火性のガスに反応するのが一般的だろう。つーかサリオは風紀委員長ですよね? 揉み消すとか言うんじゃないよ。
頼れる仲間達を誇らしげに思う感じで笑顔を浮かべるサリオに、俺はちょっと勢いを削がれてしまった。
「ふふ。わざとらしく消防車の進行を妨害したり、誰かが調理用の日本酒を家庭科室から持ってきて床に撒き散らしたり、みんなのお弁当を切り崩して即席のオードブルを作って、ご飯炊いてトン汁こさえて、出動してきた消防士さん達をねぎらって丸め込んだり、ウチの母の不始末を見事に闇へと葬りさりました」
いい話っぽいけど最後あたりで台無しだよ姫。
「りりちん部隊は合コンセッティングしてあげてたなあ。芸子さんトコの娘だからそういった方面にも顔が利くんだよ。うちの秘蔵のハニートラッパー。対外交渉もうまい」
手にするプリッツ数本を何気なく小刻みにフリフリさせながらナツミがニコニコ語ると、ワルディーも両手に菓子で嬉しそうに身体を揺らす。
「このおやつ袋、りりちんがくれた~。いつもワルディーにおやつくれるんだ~」
むう。りりちん。あのギャルか。
このさりげないファンシーな気遣いといい、確かに只者ではない。
俺はなんとなく落ち着きを取り戻し、椅子に座った。
「りりちん、妹さんと弟さんを亡くしてますからね。年下への気遣いもさりげないです」
小さなアラレを口にして少し後、シズカは遠くを見る目で声をこぼす。
……そうだったのか。
俺はりりちんがくれたおやつのビスケットに手を伸ばし、さくさく食った。
むう。あまり甘過ぎず、うまい。
「──まあ、そんなこんなで、うちらはおバカなりに、みんなで手を繋いで生きてきた」
ナツミがライフにプリッツを一本くわえさせてあげながら言った。
「……なあ。解らない事だらけだよ、世界は。カタリン」
会長は正面にやや目を落としながら言うと、カキリ、小さな板チョコを噛んだ。




