それでいいじゃない
「できる事をやってみてくれ、語君。そうやって手探りで、私達は生きてきた」
サリオの口にもプリッツを三、四本突っ込むと、ナツミの声は優しかった。
「私達が空を走れなくても、君が走れるなら、それでいい。君がウチのアナライザーより世界が見える事があったなら、それでいい。これから君にも頼っていく」
「世界中の子供達のほとんどが、自分の力についてよく解らない。ただ出来るから。ただ当り前の様に出来ていくから。だから、その力を使う。──これからも、生きていく為に」
会長がそう言ってグビリ、ミルクティーをあおると、サリオが続ける。
「ウチのアナライザーだって、彼女がそう見えているモノを、私達に声で伝え、端末にデータ化しているだけだ。──それって、何なの? ……その問いに、彼女は明確に答えられない」
サリオがコキリと首を鳴らすと、ナツミが俺を見て続けた。
「────だけど、それが、何?」
「それが、どうした」
サリオも俺の目を見てナツミに続く。
その連なる強き歌は、ただ穏やかだ。
「『認識兵器』とか、正体など、どうでもいい。それは同時に使うと空間がおかしくなる事があるとの先人たちの教え、経験を、そういうモノだからと、じゃあそういう風に使わないようにしようと、私達も次世代に伝えていく。自分たちの理想がフィルターという否定に遮られ、私達の否定が世界核の理想を遮るという事を、伝えていく。──失敗を重ね、成功に至り、そういう経験を残して、死んでいく。……生まれた意味を、託していく」
それが、人。
低い声の会長も俺を見たまま、そんな事までは言わない。
────かつて何も出来ないまま、役にも立たない銃を握らされ、ただ死んでいくだけだった少年少女達。
残酷な運命と無慈悲な確率は容赦なく、命を連れて行った。
ならば今、何が変わったのか。
『認識兵器』──。
運命すら食い殺し、確率をも叩き潰す、人に生まれた最終力。
何かも解らないそれを、子供達はある時を越え、手に入れたんだ。
サリオに吹き飛ばされた世界核──。
最後にシズカが空で、光の大爆発を巻き起こす旋風脚をひしゃげた鉄塊へ叩き込んだ。
ヤツはマッハを超えるスピードの飛翔体となって高速人型二体へ向けて蹴り飛ばされた。
摩擦が生む以上の超高熱に融けながら、そのバカでかい弾丸は激しく人型と衝突し、世界核達は三体まとめて粉々になっていった。
「統合軍がそれを許さないのなら、わたくしたちは、それを許さない」
シズカの消え入るように薄い瞳は、憎しみも乗らず、ただ俺を見る。
ライフはただ冷たく、割り込まない。
ワルディーが俺のもとへ、小走りで近寄ってきた。
そして俺の肩をポンと叩き、猫口。
「ん、リューシロくん~。できるようになったねぇ~。つぎからも、もん、よろちくたにょむよ~チミぃ~」
上司か。
シズカもサリオも、ナツミも会長も、ワルディーのセリフに顔を合わせると、吹き出し、声を上げて笑った。
ライフも微笑みながら、そっとオレンジジュースを口にした。
「──ワルディーが上手い事、要約したな。それだよカタリン」
「ほんと、それでいいんだよ語君」
会長とナツミが言うと、二人は何やら缶ジュースで仲良く乾杯。ちゅ~す、ときた。
仲良しさん……なんだな。
あの戦いのあと抱き合って、涙目で互いの無事を喜び合っていた二人の先輩。
いつだって暗闇の中を綱渡り。ただ繋ぐ手を信じあって。
このフザケた世界を、ガキはそうやって生きていく。
「はあ~、ウケた。どこの上司だワルディー。とうっ」
サリオが昼間みたいにまた親指で、今度はチョコ玉を上に弾く。
「アル!」とこれもまた口でパクっとイクが、やっぱり頭の上でナイスキャッチワルディー。
「──それでいいじゃない。カタリさん」
姫の言葉に、春風の様な情が戻っていた。
恐れ入ったよ。正直、ここまでとは。
──まあ、それで、いいんじゃない?
俺は会長が買ってきた柿ピーを手に取ると口に放り込み、片眉と口角を少し上げて、何も言わなかった。
シズカがにこり、乾杯を誘ってきたので、俺もサリオに貰った炭酸をプシュッと開けて、そっと缶を合わせてみた。




