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五時間目の戦士達5


「金を集めろ! 金が全てなんだよ! 私を満足させてごらん!」


 膝をついてうつむくワルディーの頭を、ぐちゃぐちゃの紳士はワインボトルで何度も殴りつけた。

 その一発ごとに、ワルディーの足場がガラスみたいにひび割れていく。



「くっ! ワルディー! 会長! ──きゃ!」

 銃弾を放ちながら、飛び交う通信音声に気を取られるシズカの足場が脆く崩れる。

 だがシズカは後方に宙返りを放つと、新たな光の地を踏み、落下を防いだ。


「──なんて事! これでは……!」

 冷や汗が流れる姫の表情が、一段とこわばっていた。



「阻害フィルターが一帯に張り巡らされています! 危険です! これでは不安定な薄氷の上を歩いてる様なものです!」

 氷の厚い部分も所々にあるが、大部分は薄い氷が張った空の湖。踏み抜き続けると転落死が待っている。

「現在後方部隊による対抗フィルターを順次展開していますが強度進行を遅らせるので精一杯です! 逆侵食により数名がフィルター展開不能! 要員がもうすぐ尽きます!」

「くそ! 姫の方かワルディーの方か! どっちが発生源なんだ?! やめろサリオ!」

 悪化の一途を辿る戦況に、ナツミの声も冷静でいられなくなっていた。



「ぐうっ!!」

 サリオが地面に激しく転がり落ちた。

 勢いよく最初の十歩ほどは空を駆け上がったが、すぐに光の足場を踏み抜き、バランスを崩したまま落下した。

 が、高さは五メートルも無かった事とサリオの受身が巧みであった事が救いとなった。

 すぐに立ち上がったサリオは再度跳び上がり、しかしもう、三、四歩も進まない内にまた地面へと転がり落ちる。


「ちくしょう!」

 砂埃にまみれたサリオは顔を歪ませ、会長の真下、校庭の外周へと走っていく。自分がクッションにでもなるつもりか。


 校舎方向から、でかい空気式の救助マットを息を合わせながら走って運ぶ十名ほどの女子学徒と教師、避難民達の姿が。

 

…………あの程度じゃ二十メートルくらいの落下衝撃にしか耐えられないだろう。




「私は歩ける。私は歩き続ける」



 会長は左手にライフルを握り、右手で空にぶら下がっている。

 光のヒビからいくつもの破片がこぼれ落ち、空中で融け消えていく。

 その顔は、今だ自信に満ち溢れていた。



 その足は何度も足場を探す様に泳いでいたが、もう、そこに光は生まれなかった。



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