五時間目の戦士達6
「会長! 私が──」
「ま、待って! 私の方が行けるかも……」
「だめ! みんなだめ! 今行ったらみんなも死ぬんだよ?!」
「だって! 見殺しに出来ないよ!」
五階建て校舎の屋上に展開していたロングレンジ部隊の何人かが柵を乗り越え、コンクリートの淵に立つ。
眼下から吹き上げてくる風。
そこから何もない空に恐る恐る片足を泳がせて足場を探る者もいた。しかしほとんどが恐怖に震え、それ以上前には進めなかった。
「──やめろ!! 誰も行く事は許さない!! これは私からの命令だ!!」
正面モニターに映し出される屋上の少女達へ、ナツミが厳しく言い放った。
非情。でもそれが役割。
インカムからの命令に、多くの少女がやがて涙目となった。
その名を呼びながら立ち尽くす事しか、空は許さなかった。
「みんな……私なら大丈夫。下がってて」
空にぶら下がる会長が周囲を見回し、とても穏やかに言った。
そして地上で駆け寄ってくるサリオと救助隊に目をやった会長。
彼女は何かを悟り、一粒、涙を落とした。
こういった転落事故の状況を何度か目の当たりにした事があるのだろう。
衝撃を受け止めきれなかった救助マットの上で、身体を歪ませ死んでいった子供達。
衝動的に落ちてくる人間を受け止めようと試み、衝撃に巻き込まれ、心優しきモノが辿った運命。
自分が誘発しようとしている二次災害を防ぐ為、仲間達にしてやれる事──。
そして、手の力ももう、限界だった。
「……ナツミ。あとを頼む」
「……ああ」
その返事は放心したかの様にかすれていた。
ナツミもあの高さではここにあるモノじゃ助ける事など出来ない事を、解っていたのだろう。
「いつか、みんな歩ける」
通信にそっと乗った会長の声が、みんなに届いた。
司令室の窓がぶち破られた。
サリオが間に合わない内に、会長はぶら下がる手を、ゆっくり開いた。
サリオの足から力が抜けた。
どんな状況だろうとただ歯を食い縛ってワルディーのもとへと空を駆け抜けた親衛隊隊長。
会長の落下と同じ頃、あと一歩で足場が崩れ、「ワルディー」と小さくつぶやいた彼女も──遥か地上へと落ちていった。
空を歩けない二人、それに寄り添う二人の親衛隊達。
オペレーターの、もう声にもなっていない悲痛な声と共鳴する様に彼女達は大きく泣き叫び、その場に崩れ落ちた。
襟元から響く学徒達の悲鳴に、シズカが遠くで顔を覆った。
ワルディーの目が見開かれた。
ナツミは、間に合わなかった。
──まあ、俺が間に合ったんだがな。




