五時間目の戦士達4
ワルディーと対峙するグチャグチャの紳士は、いつの間にかその手に、ノイズが散るワインボトルを握っていた。
年代物を思わせるラベルは薄いモザイクがかかっているかの様で、何が記されているのかよく解らない。
ゆっくりと、いやらしく、異形の顔面部でボトルに頬ずりをしながら紳士は言う。
「これは世界に数本しか存在しないモノでね。だけど私くらいになると、惜しげもなくこうやって使う」
そして凄い速さでソレを振り下ろし、ワルディーの頭を殴りつけた。
ガゴン! とエグい音がした直後、ワルディーは自らが展開する光の地に膝を落とした。
「人型の物理攻撃が始まりました! ワルディーが依然応答しません!」
「会長! いけるか?!」
〈だめだワルディーが近すぎて巻き込む可能性がある! 通常射撃では狙える距離じゃない! 接近する!〉
会長はすぐさま屋上の柵を乗り越え、空の光を勢いよく蹴りつけながらワルディーに向かって斜め上へと走り出した。
──が、二十秒ほど経過したくらいだろうか。
その辺りの地点で、会長が踏みしめた光の地がガラスの様に砕け散った。
「きゃあ!!」
短い叫声を上げ、地上約八十メートルからまっ逆さまに落ちていく会長。
屋上に展開する女子達やオペレーター達の短い悲鳴が重なり合った。
「オマエは落ちない!!」
ナツミはモニターに向かって叫んでいた。
「くっそおおおおおおぉおお!!」
会長が空の見えない壁面に片手をぶち込んだ。
ある地点で、空がそれに応えた。光るガラスが落ちる会長の手の平で砕かれていく。
転落した崖の壁面に爪を立ててスピードを殺すかのように、そうして会長は地面まで五十メートル近く残した辺りでなんとか落下を防いだ。
何もない空間に光のヒビを握りぶら下がるが、ビシビシと残酷な音をさせて光の壁面は破片を散らす。それでも会長は歯を食いしばり信じ続けた。
「そうだ私は落ちない! ここは、私の空だ!」
「会長! カタリはここで待て!」
非戦闘員が避難する講堂シェルターへダッシュで向かっていた俺とサリオは、屋外連絡通路で立ち止まり、空を見上げていた。
「司令! 私が向かえる距離です!」
〈まてサリオ! 強力なフィルターの可能性が高い! 今うかつに動けば二次災害を招く! 既に救助班は回したから!〉
「あんな高さから落ちて無事で済むデカい救助マットなんかすぐには無理でしょう?! 私がアクロバットを試してみます!」
十五階くらいのビルの上から落ちる様なモンだ。その衝撃を受け止められるモノを短時間で用意できるだろうか。少しでかい手持ちタイプの救助幕くらいじゃ、それを支える人間もタダでは済まないだろう。
申し訳ないくらい冷静に、俺はかつて見慣れた悲劇をただ、目の当たりにしているだけだった。




