我慢もできない、情けない男だよ
「──か、語君……なんで会長達のほうに指差して、プルプルとリキんでるの?」
ナツミが恐る恐る、熱く浸る俺に尋ねてきた。
当然だ。周囲からは挙動不審者にしか見えないだろう。シズカとサリオもちょっと離れてドキドキしてやがる。
──ワルディー。期待した顔で見るんじゃない。
よし。謝ってみよう。
俺は一つ小さく咳払いをして、ナツミを真摯な目で捉えた。
「すみませんでした先輩。会長達が美しい光景を展開した為、我慢出来ませんでした」
「我慢しろカタリ」
「我慢するのです」
「今後は我慢できるな?」
三人がショック気味に次々と言ってくるので、俺は頼もしげに「はい」と頷いた。
──俺は今後、我慢出来る。絶対に。
ワルディー。「からの~」みたいな感じで期待して見るのやめなさい。
「ああ見えて会長も、やる時はやる奴だ。君の面倒もちゃんとみてくれるから」
和みムードの会長達に目を向けるナツミは、やがて俺に視線を戻し、続けた。
「──後方任務に加えて沙理緒がついてればそう心配は無いと思うが、ご存知の通りああいう非常識な存在が相手だ。後方だろうが否が応でも遭遇戦は充分ありえる。その時は、くれぐれも自分を大事にする様に。状況にもよるが、戦闘行為はなるべく避けてくれ。ヘタに前に出ると沙理緒の攻撃に巻き込まれる恐れもある」
声色が、やや真剣味を増していた。
「それはこちらも配慮するが、カタリのステータスだと私の間合いに近寄るのは少し危険だ。そのあたりはカタリも注意するよう、頼む」
魔王サリオの間合いか。おそろしや。従っておこう。
「了解です。状況発生の際は八割の優先度で後衛を担います。世話になるよ委員長」
俺はナツミとサリオに言うと、サリオが涼しい微笑みで返してくる。
「十割で大丈夫だよカタリ。私は格闘能力ならこの学院で五本の指に入る自信がある。絶対なんて事はありえないが、カタリが近接戦に持ち込まれる事を、私が阻止する」
「──カタリさん。仮に沙理緒が抜かれる様な事があったら、それは非常に危険な敵だと思ってください。まず逃げる事を考えてください。わたくし、那津美先輩、親衛隊、もしくは他の誰かが、向かえる者が助けに向かいます。それまでは自分が生き残る事をまず優先してください」
シズカも真摯な眼差しだった。
裏を返せばサリオはそれほどのソルジャーなのだ。親衛隊をみゃうみゃう言わせてた身のこなしは伊達ではない、か。
「……でも、それじゃあまりにも俺が情けないよ。オトリ役くらいの援護は出来ると思うけど」
……こんな事、言うつもりはなかったが。つい、な。
「……そのお気持ちだけで充分です。そして、カタリさんはそういった心を次世代に繋いでいく事が出来る人間の内の一人として、精一杯、生き延びて下さい」
シズカは俺の肩にそっと手を添えて、微笑みをくれた。
──もう、いいじゃないか。彼女らの世界だ。
俺はもう、終わったんだ。
「……わかったよ、姫様。俺もみんなの足を引っ張らない様に、やってみるよ。……ごめん。俺、弱くて」
そう言って俺は……。
姫様の、強い何かを宿らせる目から、力無く視線を逸らした。




