お前の最悪は最高、だろ?
なぜか二人とも放心したような表情で、ベランダで星空を眺めていた。
真っ黒な紙に針で穴を空けたみたいな星が浮かんだ、東京の空。
それぞれの星の明かりが強いのか、夜だというのにかなり明るく見える。
こういうの、星月夜というのだっただろうか。
星の光に見守られながら、僕は隣にいる榊さんの綺麗な横顔に向かって話しかける。
「僕のどういうところが好きなんですか?」
「──ゴホっ!」
缶チューハイを片手に持った榊さんが吹き出してしまった。下に、人がいないことを祈る。
「お、おま……。急だな。告白も急だったし」
それはそう。
「お前の好きなところ、か……」
榊さんは、塀で頬杖を突きアンニュイな表情を浮かべる。
「まあ、ツッコミが速いところかな」
「まあ、ツッコミが速いところ、ですか?」
「おん」
榊さんは、残りの缶チューハイを一気にあおった。
「あたしと公太郎が初めて会ったとき、酒をねだったあたしにツッコんでくれただろ? あれ、速すぎて笑っちゃったんだよな」
「そ、そんな理由で、ですか?」
「まー、それだけではないけど。きっかけは、それ。第一印象は最高だった」
「僕の榊さんへの第一印象は最悪でしたけどね」
「お前の最悪は最高、だろ?」
「ま、まあ……」
アパート前で酔いつぶれているメイドさんなんて、最悪で最高に決まってるじゃないか。
「……お前はあたしのどーいうとこが好きなの」
星空を仰ぎながら、ぶっきらぼうにそう言う榊さん。
彼女にしては珍しい口調。照れ隠しだろうか。
「内面と外見ですかね」
「全部じゃねぇか」
シンプルに突っ込まれてしまった。
「なんか、嫌いなとことかないわけ?」
「ないです。他の人からしたらマイナスだと思う部分も、僕にとっちゃ全部プラスです」
「ベタ惚れ乙」
それから、静かでゆったりとした時間が流れた。
星の光で照らされた藍色の雲が風に流されていく様子がよく見える。
榊さんは空になった缶チューハイを片手に、僕のことをじっと見つめてくる。
夜の下に浮かぶ彼女の綺麗な顔の輪郭を目でなぞりながら、僕はそっと榊さんに近づく。
そして、今度は僕から榊さんにキスをした。
煙草やら、お酒やら。
とっても榊さんらしい味がした。気がする。
僕の不意打ちにやられたのか、榊さんの顔は一瞬で紅が咲いてしまう。
「おまっ……! やるようになったじゃねぇか」
「ぼ、僕だってたまには……!」
「おねショタの攻め逆転は賛否わかれるぞ?」
「僕らのどこがおねショタなんですか!?」
「概念的おねショタ」
こんなときまで、なんで僕らはいつもの会話をしてるんだよ。
「そんなことは今はどうでもいいんですっ! それより、榊さん!」
「は、はい」
真剣な僕の顔を見て、榊さんが背筋を伸ばして敬語になってしまった。
「……こっ、告白の返事、聞かせてもらってもいいでしょうか……」
「……おっ、ん。おっ? ん、お、おう……?」
榊さんはどもりながらも、恥ずかしそうに口端を緩める。
「あー、えっと」
そして横目でこちらを見て、微かにはにかんでみせるのだった。
「よっ、よろしくお願いします……?」
「──榊さんッ!」
「どわっっ!?」
星月夜に見守られながら。
僕は、榊さんにその場で抱き着いた。
劇的なイベントを経たわけでも。
大喧嘩を乗り越えたわけでも。
なにも特別なことのない、いたって普通の日。
しいて言えば、秋葉中を二人で一緒に走り回ったくらいか。
そんな、なんでもない日。
なんでもない日に突発的に告白をしてしまい、それを受け入れられてしまうところが。
なんとも、僕ららしいと思った。
……こうして、僕と榊さんは恋人同士になったのだった。




