ちょっと、こっちきてくれ
「よければ僕と、お付き合いしませんか」
星も寝静まったかのような静かな夜。
シングルベッドの上。
瞬きなんてするのも忘れて。
僕と榊さんは、お互いにじっと見つめ合っていた。
……言った。
ついに、言ってしまった。
好きって。
好きだって。
付き合ってくださいって。
榊さんに、言ってしまった!
──いや、今までにも何回かそれっぽいことは言ってたような気もするし、僕の態度でたぶんバレバレだったと思うけど!
それでも、こんなにはっきりとしたかたちで榊さんに気持ちを伝えたのは初めてのことだ。
というか、告白自体が初めてなんだけど……。
上手く言えていただろうか?
キ、キモくなかったか? いや、キモいのはいつもか……。
恥ずかしさや緊張を紛らわすためか、僕の頭には次々と色んな思考が押し寄せる。
どれだけの時間が経っただろう。
数秒の気もするし、数分の気もしてきた。
その間、榊さんは真顔でじっと僕の顔を見据えている。
榊さんは、なにを考えているんだろう。なにを思っているんだろう。
そんなことを考えていると、榊さんはベッドに横になったまま、片腕をゆっくりとあげてみせた。
榊さんの右手の平が、僕の頭の上に優しく置かれる。
「……あんがと」
闇に溶けていってしまいそうな、微かな榊さんの声。
そうして彼女は、音もなく立ち上がってしまった。
「榊さん……?」
思わず僕は目で榊さんを追いかける。
どうしたんだろう。怒らせてしまった? 不機嫌にさせてしまっただろうか。
榊さんは、台所の辺りで足を止め、静かに換気扇を付ける。
夜の沈黙を、換気扇の機械的な音が破る。
洗い場に背を預けながら、榊さんが懐から取り出した煙草に火をつけた。
そうして彼女は、自分の命を煙に変えていく。
薄暗い部屋で、榊さんは煙と火の小さな灯りだけを体にまとう。
その姿は、怪しく、どこか悲しげで。
僕は、そんな彼女のことが大好きなのだ。
……榊さんだ。いつもの榊さん。
僕の知っているあの榊さん。
表情も、いつも通り。
立ち居振る舞いも、いつも通り。
まるで、僕の告白なんてなかったかのように思えるほど、いつもの榊さんだ。
僕は、どうすればいいのだろう。
このまま、榊さんの返答を待つ?
今は、思案中ということだろうか。
榊さんは、台所の上に置いた灰皿に灰を落としながら。
「ちょっと、こっちきてくれ」
煙草を挟んだ指で、僕を手招きする。
僕の心臓が嫌な音を立てる。
榊さんの表情は、闇に紛れて確認できなかった。




