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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
三章 酔メイドと僕の変化

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今の、もっぺん言ってくんね?

 (さかき)さんに気持ちを伝える決心をしても、僕は意外なほどに落ち着いていた。


 というのも、僕の気持ちは彼女にとっくにバレていると思うからだ。


 榊さんも僕の気持ちを知っているからこそ、積極的に僕のことをいじってくるのだろうし。


 月明りに見守られながら、眠ってしまった榊さんを背負って歩くこと数十分。


 いつの間にか、僕ら二人が暮らすボロアパートに着いていた。

 いつも思うが、夜に見るこのアパートは廃墟のような趣があり、若干怖い。


 嫌な音を鳴らしながらボロイ階段を上っても、榊さんは一向に目を覚ます気配がない。


 部屋に入り、榊さんを僕のベッドに寝かせる。


 榊さんはふにゃふにゃとした表情を浮かべながら口元をもごもご動かしている。完全に寝入っているな。


「榊さん、明日は仕事ですか? 休みですか?」

「ん、んん」


 僕の声に、榊さんのまぶたがぴくりと動く。


「……。たぶん、休み」

「たぶんって……」


 まあ、このまま寝かせておいても大丈夫だろう。

 榊さんって、モノグサだけれど仕事はしっかりといく人だから。


 僕もベッドに腰を下ろす。なんとはなしに天井を見上げながら、明日のことに思いを巡らす。


 ところで明日、僕は講義あるっけ? なかったっけ?


 ……。


 あれ、頭が上手く回らない。


 今日一日、榊さんをおぶって走り回っていたから、さすがに疲労がたまっているのだろう。


 急激に襲った眠気が僕の頭と視界にもやをかける。


 力が抜けた僕のまぶたは自然と落ちて闇の世界に(いざな)われていく。


 そんな朧げな視界に最後に映ったのは、すうすうとかわいい顔で寝息を立てる榊さん。


 あれ。いつの間にか僕もベッドに横になってしまっていたようだ。


 現実と夢の(さかい)。まどろみの中で僕は、そういえば今日榊さんに告白するつもりなのだったとぼんやり考えていた。


 眠りにつく最後の一瞬で、僕の口からこんな言葉がこぼれた気がした。


「……好き、です」


 僕の言葉に対し、榊さんがなにかむにゃむにゃ言っていた気がするが、それが寝言だったのか彼女の意思によって紡がれた言葉なのか、僕は知らない。

 恐らく、寝言である。


 なんてことを思いながら、僕が意識を手放そうとしていると。


「──おい」


 がしっと。


 僕の頬がなに者かの手によって両端から掴まれてしまった。

 いや、なに者かって、幽霊じゃなければその相手はたった一人しかいない。

 榊さんだ。


 恐る恐る目を開け、視界を取り戻す。

 すると、いつの間にやら目を覚ましていた榊さんが真剣な面差(おもざ)しで僕を見つめているではないか。


 そうして榊さんは、こう言うのだった。


「今の、もっぺん言ってくんね?」


 その声音には、おどけた様子なんて一切含まれていなかった。


 榊さんの手で頭を固定されてしまった僕は、視線の逃げ場を失ってしまう。

 しかし、今の状況から逃げるつもりなんて一切なかった。


 僕の顔を捉えている榊さんの猫のような綺麗な目が、闇の中で確かな光を帯びている。


 彼女の顔をしかと見据える。


 時間が、落下する牡丹雪のように静かに流れていく。


 世界から断絶された、僕たちだけしかいないこの部屋、この夜に。

 存外、緊張も羞恥もなく、するりとその言葉は僕の口から飛び出たのであった。


「僕は、榊さんが好きです。よければ僕と、お付き合いしませんか」


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