こんなものしかないけれど、と言いながらアカシックレコードのアクセス権限を見せてくるおばさん
二軒めに、適当な大衆居酒屋に入った。
いつものように、酒が入ってテンションの上がった榊さんはパカパカと酒を胃に流し込んでいき、確実に酔いが回り始めてしまった。
この人かなりザルだと思うんだけど、毎回限界以上に飲むから普通に潰れるんだよな。ペースが速すぎるのだと思う。
「榊さん、そろそろ帰りましょうか」
「ん、んー」
木製のテーブルに突っ伏している榊さんの肩を優しく揺する。
「こ……」
「こ? どうしたんです?」
「……こんなものしかないけれど、と言いながらアカシックレコードのアクセス権限を見せてくるおばさん」
「ネタツイはいいですから、いきますよ」
意識が朦朧としている榊さんと一緒になんとか会計を済ませ、店を出る。
榊さんはかなり足取りがおぼつかなかったため、彼女に肩を貸しながら夜道をゆっくりと歩いた。
空は今では夜が全てを覆いつくし、ところどころを砂糖菓子みたいな星の粒が埋め尽くしていた。
僕らの家まで、あと徒歩十分くらいであろうか。
思えば、歩いてよく秋葉からこんなところまできたものである。
榊さんは、目を瞑りながらも千鳥足で歩き、むにゃむにゃと口を動かしている。
なにかを言っているようにも聞こえるし、ただ息をしているだけのようにも思える。
辺りの車通りは少なく、星の回転音でさえも聞こえてきそうな静かな夜。
そんな静謐な夜闇に、榊さんの声が溶けていく。
「……お前の両親に会いにいく前に、あたしらの関係、はっきりキメとかねーと、な……」
「はい」
……。
はい!?
「なっ、なななななに言ってるんですか榊さん!?」
「……すぅ」
「寝た!?」
確かに、一緒に住むことになったら僕の両親に挨拶にいこうと榊さんは言っていた。
その際、僕の家族にどういう関係かを訊かれるというのは想像に難くない。
改めて、僕たちの関係ってなんなのだろうか。
友達? 親友?
さすがにもう、知り合いという範疇は超えていると考えていいんだよな?
となると、こ、恋人……?
いや、いやいや! さすがにそれはないだろう。
榊さんが今言った通り、僕たちの関係のすり合わせはまだ行われていないのだから。
まあ、仲のいい男女が告白を介さず自然と付き合っていたという話も聞かなくもないけれど。
僕個人の話をすると、あまり言葉だけの関係というものに縛られたくはない。
友達、恋人、夫婦。そこに上下の貴賤はなく、どれも尊く素晴らしいものだと思うから。
榊さんとの今の関係が続くのならば、無理やりに僕たちの間を言葉という関係で縛る必要はないと思う。
でも、榊さんが前に進みたいと思ってくれているのなら、僕も彼女と一緒に一歩進んでみたいという気持ちがある。
榊さんに言わせるのはなにか、違うと思う。
だから、僕から告げよう。
……あれ? 榊さんのさっきの言葉って、そういうことでいいんよな?
まあ、僕の勘違いだったら榊さんに笑ってもらおう。
快活に笑って、それから爆笑して。榊さんなら、そうなっても今まで通りの関係を続けてくれる気がする。
ぎゅっと、全身に変な力が入った。
隣にいる榊さんの体温を感じながら、僕は月夜にこう誓う。
僕は今日、榊さんに告白する。




