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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
三章 酔メイドと僕の変化

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じゃあ、四天王の筋肉系ポジションはゲータレードってことでいいな?

 到着したビールとウーロン茶で乾杯をした。


 (さかき)さんは一息にグラスの半分ほどの量を胃に流し込んでいた。相変わらずいい飲みっぷりである。

 僕はウーロン茶を一口飲んでから、お通しで出てきた里芋の煮物を口に運ぶ。柔らかな芋にしっかりと出汁がしみ込んでいて、とても美味だった。


 榊さんも、里芋を口に放り込んでいた。

「ウマっ」

 気に入ったのか、榊さんの小鉢から里芋が一瞬で消えてしまった。


 普段、光の少ない榊さんの瞳に喜色の色が灯っている。

 よっぽど気に入ったのだろうか。


「よければ、僕の里芋もあげますよ」

「おん? いいのか?」

「はい。榊さんが食べた方が、相対的に見て僕らの幸福度数が上がりそうですから」

「は? 急にインテリぶってどした? あたし難しい話はわかんねぇぞ」

「別にインテリぶってはないですけど……」

 (いぶか)しみの表情を僕に向けながらも、榊さんは僕の小鉢からひょいぱくと里芋を食していく。


「榊さんがこの里芋を食べて得られる幸福度数が百だとしたら、僕がこの里芋を食べて得られる幸福度数はたぶん七十くらいです。だから、榊さんが食べた方が榊さんも僕もこの里芋を幸福になれると思うんです」

「ふーん?」

 もぎゅもぎゅと里芋を噛み、ビールで流し込む榊さん。


「その理屈でいくとあたしは幸福になっけど、お前は一粒里芋失うごとに七十の幸福度を失ってることになんねー? お前が失った幸福の上にあたしの幸福が成り立ってんじゃん」

「そうはなりませんよ」

「なんでだよ」

「榊さんの幸福は、僕の幸福でもありますから」

「……」


 美人メイドさんは、目を点にして黙り込んでしまった。

 そして彼女はグラスを持った手で口元を隠すようにする。


「おまっ……よくそんな恥ずかしいセリフ言えるな……」

 例の如く、榊さんの耳には熱が走っていた。


「僕、そんなにクサイこと言ってました?」

「少女漫画に出てくるイケメンくんみたいだったぞ」

「そんなに!?」

「それは言い過ぎたわ」

 なんなんだよ。


   〇


 届いた料理を食べながら、僕たちはいつも通りどうでもいい会話を繰り広げる。


「じゃあ、四天王の筋肉系ポジションはゲータレードってことでいいな?」

「はい」


 僕たちは今まで、ジュースが四天王になったとしたら、ボス系ポジション、筋肉系ポジション、姉御的ポジション、データ系ポジション、それぞれ誰が担当しそうか話し合っていたのだ。


 これは、名前の響きやパッケージの見た目や味等、様々な要素が反映される。


 姉御的ポジションはトロピカーナ、データ系ポジションはドクターペッパーにすぐ決まった。


 ボス系ポジションは悩んだ末、僕がクラフトボスをひねり出した。安直すぎたかと思ったのだが、なぜか榊さんのツボに入って爆笑されたので採用となった。


 ──おまっ……! ボス枠がクラフトボスて……! ははッ! だっせぇ……!


 ……。

 笑わせたというより笑われている気もするが、まあいいだろう。


 筋肉系ポジションはモンスターがいの一番に上がった。だが、他の三つがかなりわかりやすさ重視で決めたため、少しひねってゲータレードと相成ったのだ。ゲータレードってほら、なんか強そうだし。響きが。あれ、あんまひねれてないかも。


 めでたくジュース四天王が決まり、僕はウーロン茶を飲み一息ついていた。


 すると、榊さんは休む間もなくこうこぼす。

「死ぬまでにしたいことってあるか?」

 話の脈絡全無視で飛んでくる榊さんの話題は、いつも僕をわくわくさせる。


 死ぬまでにしたいことか。考えたこともないな。


「特には──」

 と言いかけた瞬間、僕の頭にとあるイメージが沸いた。


 ──リンゴーン。


 それは、海が見える教会でたくさんの人に囲まれ、バージンロードを歩く二人の姿。


 言うまでもなく、その正体は僕と榊さんなのであった。


「……」


 いや。


 いやいや。


 マジか、僕。


 僕、榊さんと結婚したいと思ってるのか?


 まだ付き合ってもいないのに?


 それが死ぬまでにしたいこと?


 真っ先に、それが思い浮かぶのか!?


「ど、どした?」

 急に黙りこんでしまった僕を訝る榊さん。


「あ、ちょっ! 今ッ、顔見ないでください……」


 サウナに入ったみたいに、急激に僕の体温が上昇していく。

 慌てて両手で顔を隠す。もう遅いが。


 なんか、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきたぞ……!?


「いや、なに一人で妄想して勝手に赤くなってんだよ。怖いんだが」

 榊さんをドン引きさせてしまった。


「エロいことか?」

「違います!」

 話の舵を榊さんの方に向けることにしよう。


「榊さんは、なにかあるんですか?」

「んー」


 榊さんはニヤリと怪しく口角を上げ。

「秘密」

 そうして彼女はビールを煽る。


 榊さんが考えていることが僕と同じだったら嬉しいな。


 まあ、ないと思うけど。


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