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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
三章 酔メイドと僕の変化

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はいはい。面食い面食い

 錦糸町に向かってゆっくり歩いていると。


「さ、酒……」

 と、砂漠で水を求める遭難者のような顔の(さかき)さんが、道沿いの適当な居酒屋に吸い込まれていった。


 空腹ではなくアルコール不足で店に飛び込んでしまうところが非常に榊さんらしい。


 榊さんのあとを追い、僕も入店する。店先の提灯に書いてある焼き鳥という文字が頭に残った。


 そこは、こじんまりとした居酒屋であった。個人経営のお店であろうか。


 六人ほどが座れる小さなカウンターが一つ。テーブル席が二つ。壁には達筆な筆書きのメニューが並び、カウンター内では五十代と思しきご夫婦が手際よく仕事をしていた。


 僕ら以外のお客さんは、カウンターに座る男性の二人組だけだ。


「二人いけます?」

 榊さんの覇気のないピースが、焼き鳥を焼いているご主人に送られる。


「お好きな席どうぞ!」

 主人の職人らしい顔つきが一瞬で柔く崩れ、こういった店に入るのが初めてだった僕の緊張が少し和らいだ。


「どっちがいい?」

 目の動きでカウンターとテーブルをさす榊さん。


「じゃあ、テーブルで」

「ん」

 入口側の席に腰かけ、僕らは向かい合った。


 榊さんは、テーブルに置かれたメニューに黙って視線を落としている。彼女の長いまつ毛が照明を遮り、榊さんの瞳に影を落としている。


 アンニュイなその表情に、僕は見とれてしまう。どうせ考えていることは、「なに飲むべかな~」とかそんなんだろうに。


 なんでこの人はメイド服を着ているというのに、どんな場所にいても絵になるんだろう。


 顔がいいから?

 それはあるだろう。ただ、それだけでは説明がつかない。


 顔だけではなく、彼女自身がまとうオーラのようなものが周囲を彩ってしまうのだろうか。

 これが、カリスマというやつか?


「はいはい。面食い面食い」

「まだなにも言ってないんですが!?」

 そんないつものやり取りをしていると、主人の奥さんと思しき店員さんが注文を取りにきてくれた。


「なににいたしましょう」

「ビールと」

 榊さんの黒目が僕を向く。

「ウーロン茶で」

「あと、枝豆。だし巻き。ホッケの開き。大根とザーサイのサラダお願いします。公太郎は?」

「えっと、明太ポテトサラダで」

「せっかくなんで焼き鳥をタレで一ついいですか」

「あ、タレもう一つお願いします」

「じゃ、焼き鳥タレを二つ。とりあえず、以上で」

「はいな」

 伝票に注文を書きながら、店員さんが榊さんに顔を向ける。


「お嬢さん。素敵なお召し物ねぇ」

「あざす。秋葉で働いてるんで、よかったらきてください」

 流れるように名刺を渡す榊さんを見て、僕はひっくり返りそうになってしまった。

 どんなコミュ力してるんだ、この人。


 この年代の方は、メイド喫茶にはあまり興味がないのではないか? つまり、名刺を渡してもお店にきてくれる可能性は低いだろう。

 なら、宣伝ではなくただのコミュニケーションの一環として名刺を渡したのだろうか?

 それとも、榊さんなりのボケ?

 それか、なにか他の深い意味があるのかもしれない。

 そんなことを考えている僕をよそに、店員さんは笑顔でその名刺を受け取っていた。


「まあ、ありがとうね」

 そうして、彼女はカウンターの裏に戻っていく。


「凄いですね、榊さん」

「なにがだよ」

「行動力というか、なんというか。今のは宣伝ですか?」

「ん? んー」

 頬杖をつき、呆けた顔で天井を見やる榊さん。


「いや、特になにも考えてねぇ。体が勝手に動いただけだ」

「……そう、ですか」


 時々忘れそうになる。

 顔がいいから雰囲気があるだけで、この人、頭の中は結構空っぽなのである。


「あ、今失礼なこと考えてたな」

「……」


 彼女の無駄な鋭さは、いつでも健在だ。


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