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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
三章 酔メイドと僕の変化

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エピローグ いや〇〇〇なんかいッッッ!

 桜の花が散り。

 葉桜となり。

 つぼみができ。

 花が咲き。


 そしてまた、花びらが散った。


 大学に入学してから迎える、二度目の春。


 あっという間の一年だった。


 そして今日は、僕の誕生日の前日──五月九日の、夜。


 僕と榊(さかき)さんは、ケンタッキーとマクドナルドを少しずつ買って、家でジャンキーパーティーを終えたばかりであった。


 ホールケーキを二人でちびちびと食べながら、僕らは二十四時を回るのを待っている。


 そう。これは、僕の二十歳の誕生日の前夜祭なのである。


「す、すまん……一旦気絶していいか……。食いすぎたし、飲み過ぎたわ……」

「……」


 前夜祭だというのに、榊(さかき)さんはもうグロッキーになってしまっているが。


 ちなみに、榊さんは今日もメイド服を着用中だ。


 榊さんが船をこいでいる間、僕の脳内にはここ一年の記憶がどんどんと蘇っていった。


 僕は、ゼミでの交流がきっかけで、飛野(ひの)さん以外の友達が何人かできた。一人友達が増えると、そこからどんどん人脈が広がっていくものだ。今では、大体どの講義も知り合いや顔見知りと一緒に受けている。


 勉強の方は……まあ、そこそこだ。今は、公務員試験の勉強を頑張っているところ。人一人を養うなら、やっぱり安定性のある公務員になりたちという思いが、最近は強くなってきている。


 飛野さんは、お笑い好きが講じてお笑いサークルに入った。有馬くんも入ろうよとよく誘われるのだが、僕は自分の面白さに自信がないため、毎回断っている。


 まりにゃんさんとルイにゃんさんは、今も『メイドを舐(にゃ)めるにゃ!』で働いている。


 最近、まりにゃんさんが人気ナンバーワンになったらしい。さすがだ。


 ルイにゃんさんは定期的に『さかにゃんとどこまで進んだ?』と僕にLINEを送ってくる。その都度『なにも進んでません』と返していたが……今日以降、僕の返答が少し変わってしまうかもしれない……。別に、正直に答える必要もないのだろうけれど。


 舞姫(まいひめ)さんは、ホラー小説でもう一本スマッシュヒットを出した。僕も読ませてもらったが、かなり怖くて面白かった。いつかライトノベル書いてくださいよと冗談めかして言うと、彼女は『いつかね~』と毎回はぐらかすのだ。


 我藤(がとう)さんは半年ほど前にYouTubeを始め、これが軌道に乗り始めている。ファッション系の動画はよく伸びるが、ネタ系の動画が全く伸びないことをよく憤っている。まあ、なにはともあれ、我藤さんの懐が温かくなるのはいいことだ。……まあ彼女は、増えた分消費も加速するのだろうが。


 そして榊さんは、今年に入ってから、スローペースではあるが芸人の活動を再開した。相変わらずシュールなネタが好きなようだが、着実にコアなファンが増え始めている。なにかがきっかけで、大きくハネるのも時間の問題だろう。……まあこれは、僕の願望も込みだが。


 そして、僕と榊さんの関係だが。


 ……マジで一年前となにも変わっていない。


 喧嘩もないし、仲良しのままだ。


「あ、日付変わった」

「んおっ。マジ?」

 僕の声で、半分寝ていた榊さんがハッと目を覚ました。


 彼女は寝ぼけ眼(まなこ)で僕を見据えながら。

「誕生日おめでとう」

 凄い真顔で言われるから、笑いそうになった。


「ありがとうございます」

 僕の声を聞きながら、榊さんが、物で溢れたローテーブルの上をあさり始める。


「ん。酒と煙草、どっちから試す?」

 榊さんの右手には、一年前に僕にくれた葉巻が。左手には、飲みかけのビールが。


「……ふふ。なんで飲みかけなんですか」

「ん? それもそか」

 まだ、頭が回っていないようだ。


「じゃあ、煙草からで」

「ん。普通の紙煙草と葉巻、どっちんする?」

「せっかくなので、榊さんがくれた葉巻で」

「おけ」

 そう言い、榊さんは葉巻を箱から取り出してじっと見つめる。


「葉巻ってどうやって吸うんだ?」

「知らないのかよ」

「ジョーダン、ジョーダン」

 にっと笑いながら、榊さんが謎の道具を取り出した。


 両端に持ち手がある大きな目のような形をした道具だ。真ん中には、葉巻をカットするための刃がついている。なんか、硬派な映画とかで見たことあるな。


「ギロチンカッターっていうらしいぜ」


 榊さんは、その道具で葉巻の先端をカットした。

 それから榊さんは、ライターを使用して葉巻の底の方をあぶり始めた。火をつけるためではないらしい。僕にはよくわからないが、必要な工程なのだろう。


「ん、もういいかな。ほい、くわえてみ」

「はひ」

 返事をする前に、僕の口には葉巻が突っ込まれていた。この時点で木? 草? のような、自然的な香りがほんのり漂っている気がする。


「吸って」

 言われた通り、葉巻を吸う。すると、榊さんが葉巻の先端にライターで火を灯した。

 断面が、赤く燃え始める。


「よし、そのまま吸って。肺には入れなくていいぞ。重いからな。口の中で楽しむ感じだ」

 言われた通り、煙を口の中で転がす。


 ……なんか、変な感じだな。温かい煙が口の中を満たすなんて経験、普通はないもんな。


 濃く、スモーキーな風味が口内を暴れまわっている。意外と、不快ではない。

 味というよりは、香りを楽しむものなのかな?


「吐いていいぞ」

「はひ」


 少しずつ、煙を吐き出す。

 薄い紫煙が、照明に向かって伸び、すぐに消える。


「……なるほど。これが煙草……これが葉巻ですか」

「……」


 煙草の初体験を終えた僕を、榊さんはなぜか白けたような目で見つめていた。

「お前……初めてならもっと、咳き込むとかかわいらしい反応しろよ」

「どんな要求!?」

 確かに、フィクションとかで煙草を初めて吸った人が咳き込むシーン、よくあるし、かわいいけど。


 それから、榊さんも自分の葉巻に火を付け、吸い始めた。

 ……いや、絵になりすぎだろ、この人。人、一人は殺してそうだ。


「ふふ」

「おん?」

「いや、二人して黙って家で葉巻吸ってる姿がなんだかおかしくって」

「確かに、シュールだわな」

 煙を吐き出しながら、榊さんは口端だけで笑ってみせた。


 二人とも葉巻を吸い終わった辺りで、次はお酒を試してみることにした。

 僕が最初に選んだのは、缶ビール。榊さんが一番飲んでいるイメージがあり、気になっていたのだ。


 キンキンに冷えたビールをお互い手に取り、プルタブを開け、缶を軽くぶつける。

「乾杯」

「乾杯」


 ぐびぐびいく榊さんを横目に、僕は恐る恐る一口。

 ……。これは。


「……」

「どうだ?」

「正直言うと、不味い、です」

「あっはっは」

 なんか、ただ苦いだけの不味いジュースを飲んでいるような感じ。


「ま、これは安いビールだしな。もっといいやつや、飲みやすいのもあるぞ。単にビールが合わないだけで、他の酒なら飲めるかもしれないしな」

「色々、試してみます」

 そのビールは榊さんに飲んでもらうことにして、その後も僕は色々なお酒を試してみた。


 たくさん飲んでもあまり様子の変わらない僕を見た榊さんが。

「お前強いじゃん。今度、飲み放題で限界探りにいこうぜ」

 と、なんとも楽しそうな提案をしてくれたのであった。


   〇


 お酒を楽しみつつ、僕らは談笑をしていた。

 しかし、その間(かん)、二人ともどこか浮足立っているというか、そわそわとしていた。

 理由は明白だ。

 僕が二十歳になったときの約束が、あと一つ残っているのだ。


 ……そう。なんと、今日──。


 ──えちえちが解禁されてしまうのである。


「……」

「……」


 ふと、静寂の時間ができ。


 僕らは、無言で見つめ合ってしまった。


 ……それが、合図だったのだろうか。


 僕の正面に座る榊さんが腰をあげ、ローテーブルに手を置き、首を伸ばして僕にキスをした。


 すぐに唇をはなし、榊さんはベッドに腰かける。


 そして彼女は、自分の横を、とんとんと手で優しく叩いた。

「ん。ここ」


 跳ね上がる心臓の鼓動を意識しながら、僕は榊さんの隣に静かに座った。


「風呂……は、お前は、入らない方が興奮するよな──」

「はい」

「食い気味で草」


 顔を合わせ、笑い合う。

 ムードもへったくれもない。


 榊さんは、メイド服を脱ごうとして、途中で指の動きを止める。

「メイド服、着たままの方がいいか?」

「……。着たままで」

「お前、ホント変態だな」


 背中に、ベッドの感触。

 遅れて、榊さんに押し倒されたのだと気づく。


 真正面に、僕の好きな榊さんの顔があり、そして、それが少しずつ近づいてくる。


「あ、あの。僕、初めて、なので……」

「だーいじょぶだって。経験豊富なお姉さんに任せとき」

「ちょッ、今脳破壊するようなこと言わないでくれます!?」

「興奮するくせに」


 本日二度目のキス。


 美しい彼女の黒髪が天蓋(てんがい)の役割を果たし、二人だけの世界を作り上げる。


 榊さんの瞳は、欠けのない月のように美しい。


 今度は、僕の方から彼女の唇を求めた。


 ──長い夜が、始まる。


   〇


「──朝チュンッ!?」


 窓の外から小鳥の声を聞き、僕は叫びながら勢いよく上体を起こした。漫画だったら、大きな書き文字で『ガバッ』と書かれていることだろう。


 隣には、メイド服のまま豪快な体勢で寝る榊さん。

 夢……ではないんだよな?


「ん、んん……」

 カスカスの声を発しながら、榊さんもゆっくり上体を起こした。


「……はよ」

「おはようございます」


「……」

「……」


 目を合わせたり、逸らしたりを繰り返す僕ら。


 なんだこの空気。なんだか、気まずいぞ。


「昨日の、夢じゃないですよね」

「おん。めっちゃ現実」


「……。じゃあ、一旦ツッコミ入れさせていただきますね」

「おん?」


 僕はふっと息を吐いてから、大声でこう言うのだった。


「──いや、初めてなんかいいぃぃッッッッッッ!」

「──おまっ! むしかえすなよアホがぁぁぁッ!」

 叫びながら、榊さんの全身が一気にピンクに染まってしまった。


「なにが『経験豊富なお姉さんに任せとき』、ですか! ゴリゴリの生娘(きむすめ)じゃないですかっっ!」

「うっせ、バーーーカっ! 死ねっ! 死ねッ! あたしみたいなやつには意外と誰も寄ってこねぇんだよ! 寄ってきてもすぐ幻滅されんだ! 二秒でわかれ! そんくらい! カス!」

「逆ギレ!?」


「いや、それなら、あたしも言わせてもらうけど! あたし、お前にドン引きだったかんな!? なんで初めてであんなえげつないプレイ挑戦しようと──」

「どわぁぁぁぁ!? そこ蒸し返すのはちがくないですか!?」


「いやぁ、まさか公太郎(こうたろう)にあんな性癖がまだ隠されていたとはなぁ……。普通に鳥肌立ったわ……」

「あれ? 榊さんも結構ノリノリじゃなかったでしたっけ」

「──うおわぁぁぁ! 黙れカスぅぅぅぅッッッ! おッ、お前だってなぁ! ずーっと胸ばっか──」

「──そのやかましい口を今すぐに閉じろぉぉぉッッ!」


 そのあとも、大声でやいのやいのと言い合いを続けていると。


 ──ドン!


 隣の部屋から、ガチ目の壁ドンをされてしまった。


 そういえば、この春から大学生がやってきたんだっけ。


 僕と榊さんは目を丸くして見つめ合い、やがて二人同時に相好(そうごう)を崩して小さく笑い合った。


「今度、なんかお詫びの品持って隣に挨拶いくか。まだ顔も知らねーし」

「そうですね」


 榊さんが、腕を伸ばしてベランダのガラス戸を開けた。


 流れ込む朝日と吹き込む春風に包まれ、なぜだか感嘆のため息が漏れてしまった。


 なんとなく、二人同時に立ち上がってベランダに立った。

 遠くには、もう花びらを散らした桜並木が並んでいる。


「毎年、花見しながら酒飲もうと思うんだけど、気づいたときには散ってんだよな」

「来年は、一緒にしましょうよ」


 時は過ぎ、季節は巡っていく。


 僕たちは、あと何回桜の花びらを見ることができるのだろうか。

 何年先まで、僕の隣には榊さんが立っていてくれるのだろうか。


 僕は、なんとなく榊さんの手を握っていた。

 優しくて、面白くて、ちょっと変な、メイドさんの手を。


 すると、榊さんは嫌な顔一つせず、僕の手を握り返してきた。


「おじいちゃんとおばあちゃんになっても」

「おん?」


「──こうやって、仲良く手を繋いでいられたらいいですよね」

「……。だな」


 優しい風が僕らを包む。


 榊さんの手から、彼女の温かな体温を感じる。


 僕の手に。

 榊さんの手に。


 しわが、できるまで。


 そして、いつかそのしわが消えるまで。


 ずっと、この手を僕が握っていたいと。


 春の空に、そんなことを思ったのだ。


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