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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
三章 酔メイドと僕の変化

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あたしが就職することになっちまうだろうが!?

「お前が、急に結婚とか口走るからだろォがーーーーーッ!!」

 どうして急に就活を始めたのか訊いたら、怒鳴られてしまった。


「ど、どういうことですか! なんで僕がその……けっ、けけけ、結、婚……って単語を出すと榊(さかき)さんが就活することに──」

「おい! もう二度とその『け』から始まって『ん』で終わる間に小さい『っ』が入る四文字の言葉口走んなよ!?」

「なんでだよ!?」

「あたしが就職することになっちまうだろうが!?」

「どゆこと!?」

 色々と理不尽すぎるだろ!


 榊さんは、一息にまくしたてた反動か、ふぅふぅと肩で息をしていた。

 そして、そんな彼女のテンションに合わせている僕の息まで荒れ始める。


 ……ビークール。よし、落ち着け。一旦整理しよう。


 どうして榊さんが就活をするのか? それはやはり、お金が必要だからだろう。

 それならば、榊さんはどうして急にお金をほしがったのか? それは、お金が入用になったからにほかならない。

 そして、榊さんが就活を始めたのは、僕が「結婚」というワードを出したからだという。


 ……! まさか、榊さん……。


「……本気で、僕との結婚を考えてくれてるんですか……?」

「! ……」


 榊さんは歯がみし、僕から視線を逸らす。そして、頬を軽くかきながら──。


「……悪(わり)ィかよ……」


 鮮烈に、耳を染めてみせるのだった。


「榊さん……」


 ふわりと香る紫煙。

 僕が呟き終わる頃には、既に僕は、大好きなメイドさんをしっかりと抱きしめていたのであった。


「おい。あたし、たぶん汗臭(くせ)ェから……」

 恥ずかしさからか、僕を引きはがそうとする榊さん。


「気にしません。むしろ──」

「キショっ! ……くそ、このやり取りも久々だな」


 榊さんは僕の肩に手を置き、腕を前に伸ばした。そのせいで僕との間に腕分の距離ができるが、おかげで至近距離見つめ合うことができる。


「お前は、あたしのことが好きなんだな?」

「はい」


「けっ、結婚したいくらいに、か……?」

「……はい」


 鏡写しのように、お互いの顔がどんどんと赤を帯びていく。


「よ、よし。わかった」


 榊さんは僕をまっすぐに見据えたまま、ごくりと喉を鳴らす。


「一週間後くらいに、あたしの本命含めた就活先の結果があらかた出そろうんだ。どこか一つでも採用されたら、その……」


 ぎゅっと目を瞑りながら、榊さんは僕にこう告げる。


「あたしと、結婚ってやつ、してみるか……?」

「──はいっ」


 食い気味に答えながらも。


 なんか、榊さんの言い方が若干戦闘民族っぽかったこととか。


 普通、この立場逆じゃね? とか色々思ったのだが。


 そのすべてがなんだか僕ららしく、愛おしくって。


 今はただ、この幸せなだけの時間におぼれたいと、そう思った。


   〇


 その後、なんとなく、僕たちはベッドの上で寝ころび、お互いの顔を見つめ合っていた。


「榊さんが就職することを僕は止めたりしません。でも、もし僕のためだけに就職するつもりだったら、僕は少し寂しいです。榊さんには、芸人になる夢も、素敵なメイドさんの道もあるのに──」

「おん? 別に、どっちも諦めねぇけど?」

「はい!?」


「むしろ、芸人もメイドもどっちも極めるための就職だっての。なにごとも、極めるにゃあ金がいるだろ? だから、資金稼ぎのための腰かけ就職だよ。ある程度金がたまったら、さっさと辞めるつもりだぜ?」

「あ、そ……そうでしたか……」


 その言葉を聞き、露骨に安堵している自分がいることに気が付いた。

 僕は、榊さんが僕のために、生きる指針を曲げてしまうのが嫌なのだろう。


「前から思ってたんだよ。いつかは普通に働いて金ためようってな。でもあたし、こんな性格だから、メンドいことはいつまでも先伸ばしにしちまうんだよ。……でまあ、今回がいいきっかけだと思って、一歩飛び出してみたってワケ」

「なるほど」


 榊さんの横髪が下に垂れ、彼女の鼻先をかすめる。

 僕は無意識に指を伸ばし、彼女の耳に、垂れた髪をかけたのだった。

 榊さんは特になにも言わず、ただ、僕から目を逸らす。その頬は、気恥ずかしそうに朱(しゅ)をはらんでいた。


「好きなときに仕事、辞めていいですよ。僕は、榊さんの夢を応援します。そのために、バイト頑張ります。大学を出て、頑張って普通の企業に就職して、頑張って普通に働きます。大切な、榊さんのために」

「公太郎(こうたろう)……」


 榊さんの瞳が一瞬うるんだように見えた。次いで、榊さんは口元だけでフッと笑い、そして、すぐに真顔になってこう言うのだった。


「いや、それさ。あたし、クソひも女じゃねぇか」

「……」

 結構ずっとそうだろ。


「あ、そうだそうだ」

 急に榊さんが上体を起こし、なにやら自分の鞄の中をあさり始めた。


「なんであたしが急に帰ってきたかってーと……。就活に一区切りついたってのもあるけど、なんとか今日までに帰ってきたかったからなんだよ」

「今日?」


 今日はなんの日だったかな。

 そんなことを思っていると、僕の手になにかが置かれた。


「誕生日おめでとう。公太郎。十九歳か? わけぇな」

「あ……」


 そうだ。五月十日。今日は僕の誕生日ではないか。すっかり忘れていた。


 というか──。


「あの榊さんが、プレゼントを……?」

「あのは余計だけどな」


 期待しながら自分の手の平を見ると、そこには。


 ──包装もなにもされていない、謎のメーカーの謎のグミが置かれていた。


「絶対パチンコの景品だコレ!?」

「わは。バレたか」


 衝撃を受けるとともに、あまりにも榊さんらしいプレゼントに、逆に僕は舞い上がってしまった。


「ありがとうございます! 普通に嬉しいです!」

「お前、なんでも喜ぶのな……。ホントはそれ、ただのジャブだったんだけど」

「え!? まだなにかあるんですか?」

「ん。これがあたしの右ストレート」


 ぐいと、有無を言わさず僕の目前に突き付けられたのは、小さな長方形のなにか。こちらは、綺麗にラッピングされていた。


「わぁ。開けてもいいですか?」

「どぞ」


 期待に胸を膨らませ、僕は豪快にラッピングを破いていく。

 小さな箱を開封すると、そこには──。


「これ、は」


 緩衝材とともに、幅一センチ、直径十センチほどの、木の幹のようなものが入っていた。


「もしかして、葉巻、ですか?」

「そ。未成年に煙草をプレゼントすんのもどうかと思うけど……。今吸えってことじゃなくてだな。一年後、お前が二十歳になったら一緒に吸うための、未来へのプレゼントだ」

「わぁ……!」


 この人は、なんて粋(いき)なことをしてくれるんだろう。


「もしかして、たばこと塩の博物館で買ったんですか?」

「ああ。お前用と、あたし用をな。……一年後、しけっちまってたら、また買えばいいしな」

「はいっ」


 僕は、榊さんにもらったグミと葉巻をぎゅっと胸に抱きとめたのだった。


   〇


 ベッドに二人で寝そべりながら、一緒にグミを食べた。

 少しお行儀が悪いが、榊さんと一緒だと、なぜか罪悪感が薄れるんだよな。……やはり僕、彼女といることでちょっとずつ道を踏み外している気がする。まあ、そんなの今更か。


「なー。公太郎ー」

「はい」


 榊さんは、もきゅもきゅとグミを噛み、飲み込んでから。


 コンビニにいこうというくらいのノリで、こう言った。


「付き合ってまあまあ経つし、そろそろエロいことするか?」


「ぶッ!?」

 食べていたグミを吹き出しかけた。


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